レース④ 蛇輪の奥の手
キィイイイイイン
甲高い音を鳴らし続け、遂に通称鮭のストラトスフィアはストッと二機の前に着地した。
「よ~しどっちと戦うかなあ?」
瑠璃ィキャナリーは蛇輪を奪うと言いながら、戦いを楽しむ様にXSと見比べた。
『雪布留さん、私散々貴方に剣の腕自慢をした以上ここは貴方を守ってみせますわ!』
『え?』
フルエレが驚く間も無く、着地した直後の謎の魔ローダー鮭に向かってユリィーナの練習機体XS25は木剣を構えて突っ込んで行った。
『とりゃっ!!』
「なんや木剣で戦うんかっおもろいやんか、相手したるでっ!!」
バシイッ!!
木剣で打ち込みに掛かったXSに対し、実剣を抜かずに片手の手刀で受け太刀する瑠璃ィのストラトスフィア。
『ユリィーナさん危ない!!』
思わず雪布留は叫んだ。
バシッバチーーン!
彼女の目前で二機は木剣と手刀で激しい打ち合いを演じる。
『私もバカではありませんわ。この機体は前回出現した時は遊ぶ用な不思議な動きをして本気で殺しに掛かって来る殺気が無かったそうです。もしかしたら本当に宇宙人が乗っているのかも知れません事よフフ』
『ちょっと冗談言ってる場合!?』
フルエレはユリィーナの真意を図りかねた。
『冗談ではありませんわ。私がこうして鮭の気を引いている内に、先程雪布留さんがやろうとしていた何かズルい手を使ってこいつを倒して下さいな!』
フルエレはハッとした。千岐大蛇を倒し最近学生生活で気が抜けてすっかり忘れていた蛇輪の新たな魔ローダースキル、金輪を使う絶好の機会でもあった。
『分かったわ……そのまま引き付けて頂戴』
言い終わるとフルエレはそーっとそーっとカニ歩きで、戦い合う二機の内鮭の背後に回り込み始めた。
(気付かないで~~)
もちろん百戦錬磨の瑠璃ィにはそんな動きは百も承知であった。
「なんや女王陛下が後ろに回りおったで、スイカ割りみたいに木剣で叩きに来るんかな?」
余裕を見せまくる瑠璃ィも自分がゲスト出演していた女王選定会議の時に、蛇輪が同僚貴城乃シューネの旗機から金輪を取得している事を失念していた。
「いや、いきなり物凄いスピードの爪で突っ込んで来るのですわ。知りませんわよ」
「ちょっ待てよ、俺達どうなんだよ!?」
少し元気が復活した七華王女とシャルが再び文句を言い始めた。
「まーまー慌てなさんな、ウチがヒラッと避けてみせるわ!」
瑠璃ィは魔呂の駆動音と気配でいかなる打ち込みも絶対的に避ける自信があった。しかしその為に慢心にもなっていた。
ジリッ
雪布留もカモフラージュの為に木剣を握りしめて構えた。
(ふぅ……鮭の奴私の事完全に舐めてるわね、いいわいきなり全身くし刺しにしてやるから!!)
『準備オーケーよ、私の合図で避けて!』
『いえ、避けませんわ!』
『え? なんで??』
撃つ直前だった雪布留は慌てた。
『先に避ければ確実に気取られますわ、私に構わずいきなりズルい手で猛攻撃して下さいな。その方が貴方も気分良いでしょ?』
『そんな……』
確かに先程まで如何に光の剣をユリィーナに撃ちまくるかとばかり考えていたが、まさか本当に敵ごと撃つとは思いも寄らなかった。
『早くして下さい。もうそろそろ鮭が飽きて来るかもしれませんことよ?』
その通りであった。
「うーーもうええか? コイツ倒して蛇輪にでも行くかな?? うふふ」
(何この女、戦いを楽しんでますの? 明るそうに見えてセレネやフルエレとはまるで違う危険なタイプの女ですわ)
もともと争いが嫌いな七華王女は瑠璃ィの態度に違和感を覚え始めた。
『分かったわ……金輪という光の剣のスキルを撃ちまくる。けど胸部のバイタルは狙わないから、鮭にトドメは刺せないけど貴方も無事だわ。それで良いかしら?』
『それで結構よ、どうぞ』
ユリィーナは覚悟を決めた。直後、目線の先に立つ蛇輪の背中に後光の様な光の輪が現れた。
ポ……
フルエレがターゲットを定めると、魔法モニター上に攻撃範囲が表示される。
ピピピ
『このぉーーーシャケッいい加減落ちなさいーーーっ!!』
バッッ!
ユリィーナのXSは一気にカタを付ける振りをして木剣を振りかぶった。
「木剣でどうするつも」
シュパパパパパパパ!!
直後、油断していた背中から大量の光の剣が線となって襲い掛かった。
グサグサグサグサグサ……
あたかもサボテン型モンスターの飛び針が全身に突き刺さる様に、ストラトスフィアの胸部バイタルを除いて背部全体にまんべんなくおびただしい数の光の剣が一気に突き刺さった。
「ぐっ!? なんやっぐあっ」
ザシャーーン!
堪らず片膝を着くストラトスフィア。
『きゃーーっ!』
しかし鮭の巨体の脚の間をすり抜け、数本の光の剣がXSの胴体にも当たっていた。




