レース復帰③ 二人の敵
『だめだっどんどん迫って来る!?』
『でも逃げたらセレネ王女に叱られるぞっ』
引くも地獄、進むも地獄の状態になったSRV操縦者はヤケになって立ちはだかった。
『お、俺たちゃ、は、はぐれSRVさねー』
『ヒャッハ……』
しかし大音声で叫んだ言葉は既に二人の役割の終わりを感じさせる物であった。
ピピピ
そのル・ツー内では依世とスナコが揉めていた。
ズダダダダダ
「どうすんのよアレ?」
「はあ? あんなもんぶちのめして行きます!」
「いいの? 味方じゃないの何かの報告じゃないの?」
「否ッ我が前に立ちはだかる時点で全て敵で確定です」
「どんどん近付いて来るよー」
兎幸が他人事の様に報告するが、砂緒に比べて依世はあまり揉め事を起こしたくなかった。
「ほらほら、一旦止まらない?」
「知るっかあ! うりゃーーーーーーっ!!」
遂にスナコは突撃体勢に入った。
「だからやめいてっ」
シュババッ
なおも光の速さで走って来るル・ツーに操縦者の一人は覚悟を決めた。
『ヒィッ突っ込んで来る!?』
『動くなっ動くと当たり所が悪いと死ぬ。任務をこなして立ちはだかり、静かにヤラれるそれしか無い!!』
二機のSRVは磔される様な気持ちで大の字になった。
『どっけえええええ!!!』
ドギャッッ!!
ポーーーーーーンッ!
背中のアゲハの羽を噴出し腰にスパーダをぶら下げたまま飛翔したル・ツーは飛び膝蹴りで一機のSRVの首を飛ばし、同時に腰にぶら下がるスパーダの両脚がもう一機の肩にぶち当たって体ごと吹っ飛ばした。
『ギャーーッ今の何!? 何が当たったのですかっ』
『リュデュア殿、ナイスアタックでしたピョンよっ!』
『えっえっ!?』
リュデュア・セリカは突然の両脚の衝撃に戸惑ったが後の祭りであった。
「私知らないから」
セレネの仕込みだと分からない依世は操縦席の中で身を縮めて隠れた。
スタタタタッ
ギューーーンッ!
『きゃっ』
『誰!?』
さらに休みなく走り続けるル・ツーは二機の巨大な影を追い抜いた。
シュバーーッ
「また抜かしましたぞっ!!」
「どんどん抜かしてるっ!」
はぐれSRVを倒した後から、ゆっくりペースで真面目に走り続けるペアを何組か抜かし始めたスナコ達であった。
『リュデュア殿、この調子で行けば必ず勝てるピョンよっ!』
『ありがとうスナコさん兎幸さん妹さん、でも無理なさらないで下さいね』
相変わらずリュデュア・セリカは気遣いの出来る気立ての良い娘であった。
「私の事まできっちり覚えてるのね、なんか怖いわ」
「貴様のその感想が怖いわ! なんでザコの自分の事まで覚えててくれて嬉しいと言わん?」
「誰が雑魚かっ! でも何でアンタみたいな性格がねじくれた奴が妙にあの子に優しいのよ? またやらしい事狙ってるんでしょ?」
依世が疑いの目でスナコを見た。
「違い申す! リュデュアは可愛いが私の好みでは御座らんわ。ただ彼女は私がかつて攻め落としたトリッシュ市の出身にて、そんな子がユティトレッドの都会に来て孤立して苦労しておる。フルエレの同盟を成立させる為の戦争とは言え、せめて攻めた都市の子の役に立ちたいのじゃ……」
依世は思いがけず嫌いな砂緒の真面目過ぎる発想に突っ込み処を無くした。
(せめて攻めた子ってダジャレじゃ無いわよね?)
「あっそっ」
依世はそれ以上何も言わずぷいっと横を向いた。
フォーンフォーーン!
ストラトスフィアの操縦席内は険悪な雰囲気の後は気まずさで静まり返っていたが、不意に高性能な魔法探索レーダーが機影を捉えた。
「なんや二機だけはぐれとる奴が居るおもたらドンピシャで蛇輪やっ!」
瑠璃ィキャナリーが目を見開くと、またシャルと七華王女が険しい顔になった。
「貴方ホントに人の話聞きませんわね!?」
「ホントだぜ、また首閉められたいのかよ?」
「んなかて、依世にも紅蓮にも蛇輪奪う手立ては無いんちゃうか? その氷漬けの子をはよう生き返らせたいのやろ??」
瑠璃ィの言葉にカヤは言葉が出なかった。今目の前に見える魔ローダーを奪えば姉が生き返るかも知れない……そう思うと反対する事は出来なかった。
「まー見とき、綺麗に奪ったるわっ!」
(手足の一二本くらい取れるかも知れんけどなフフ)
キュイィイイイイイン
まだまだ乱闘中の雪布留達二機の頭上から、ジェット機の様な甲高い音と共に銀色の謎機体が突如舞い降りた。
『うそっシャケッ!? レーダー班は何してるの??』
『雪布留さん、今度こそ試合は一時お預けの様ですわね』
ユリィーナも遂に頭を切り替えた。
『その様ね……』
雪乃フルエレ女王の蛇輪は上空を見上げながら木剣を強く握り直した。
当初リュフミュラン・ニナルティナ・ユティトレッドの主要三国だった同盟(北部海峡列国同盟)は、徐々に版図を広げ南のセブンリーファ後川流域の地を合わせる事になった。




