レース復帰② それぞれの敵
砂緒=スナコ
雪乃フルエレ=雪布留
「ヒューーーーーッホホホホホホホホホホホ」
何故か高笑いするスナコのル・ツーは、腰にリュデュア・セリカのスパーダをぶら下げたまま、ハイパワー的モードの力で凄まじい猛ダッシュを続けていた。
シュタタタタタッ!!
「ちょ、ちょっとアンタ少しは加減しなさいよ、魔力を供給してるこっちの身にもなって欲しいわよっ!」
スナコに絶対に肩が触れない様に微妙に距離を取りつつ横から操縦桿を握る依世が遂に文句を漏らした。
「およ、もう弱音を吐くのですかな? 兎幸などは血反吐吐くまで魔力を絞り出しても文句一つ言いませんぞ!」
「アンタそれ虐待じゃない、お姉さまに言い付けてやるわっ!」
「兎幸大丈夫だよ砂緒の為にがんばるぴょん! それよかここら辺で左に45N°ターンしてっ!!」
(じゃ今代わりなさいよ)
睨む依世を他所に兎幸のナビでスナコはぐいーーんと急カーブを曲がった。
「ピキューーンッ! これで大体正規のルートに戻ったよ、このまま北上すれば夫婦岩のある志摩地区北海岸に出るピョンよ!」
兎幸の目が光り、ル・ツーの魔法センサーと魔ローンを同期しつつ正確な位置をシュミレートする。
「ちょっと兎幸! なんで今まで魔ローンの事忘れてたんですか!? 最初からこれさえあれば迷う事はなかったんじゃないですかっ!? 思い出した様に急に突然使い始めてるデショー??」
自分も忘れていた事を棚に上げた砂緒に叱られて、兎幸の顔が途端に泣きそうに曇る。
「うっご、ゴメン……魔ローン修復してる内に存在自体忘れてたピョンよ……」
「ひど、今度はいじめる訳?」
数々の激しい戦いで破損して来た魔ローンは異次元で長期修復中だったのだ。しかし普段世話になり過ぎている大好きな兎幸が泣きそうに暗い顔になってしまってさすがに砂緒でも焦った。
「うっそピョーン! 兎幸可愛いから許す!!」
急いでスナコは笑顔で兎幸のウサミミ頭をクリクリ撫でさすった。今度はすぐに満面の笑顔になる兎幸。
「わーーーーい!! えへへ」
「何よソレ単純」
依世は目を細めて横を向いた。
「ワハハハハどうした? わらしと愛くるしい兎幸との仲睦まじき事に嫉妬に悶え苦しんでいる様だなァ!?」
何故か指を差して勝ち誇るスナコ。
「誰が嫉妬かっ!!」
ピピピ
突然ル・ツーのアラートが鳴った。
「二人ともアレ見て!!」
兎幸が大型魔法モニターに指を差すと、蛇輪とXS25が木剣で争っていた。
(お姉さまの蛇輪! ここまで戻って来たのね……)
稼働中の生徒達の中ではスナコ組を除いてダントツの最下位となっている雪布留とユリィーナペアであった。彼女らはまだ戦っているのだ。
バチィーーンン!!
『んもーーーっいい加減止めない!?』
『いいえ、日が暮れるまで止めませんわっ!』
(もういいわ……ミスッたとか言って金輪の光の剣を当てよう……事故、そう事故なのよ)
雪乃フルエレ女王の脳裏に危ない考えがよぎる。
『あ、あれ何!?』
ズドドドドドド!!
ユリィーナの視界に激走するル・ツーが入り、その言葉でフルエレも気付いた。
『おーい、スナコちゃん助けてっ!!』
蛇輪は木剣を大きく振って秘匿通信で叫んだ。
『フルエレッまだこんなトコで何してるでゴザルピョンよ!? しかし拙者今取り込み中にて済まぬ堪忍してたも!!』
「アンタ地声の秘匿通信ならピョンとか必要無いでしょ?」
依世は、女装スナコの正体を知る姉との秘匿通信の砂緒の言葉遣いに呆れた。兎幸が代声してるからこその変な言葉遣いなのだ。
『ちょっとそんな事言わないでよ! お願い助けてピョン!』
何故か姉のフルエレまでつられてピョンとか言い出しコケる依世。しかしそんな会話の瞬間も、猛烈な勢いで走るル・ツーはすぐに蛇輪を追い抜く目前になる。
『キャーーーーッどいてどいてーーーーッ』
ズドドドドド
相変わらずル・ツーの腰にぶら下がったままのスパーダのセリカが、乱闘中の二機をすり抜きざまに叫んで二人は慌ててサッと避けてあっけにとられた。
ギューーーーーン……
ポカーンとする二機を置いてスナコペアは嵐の様に通り過ぎた。
『……じゃ、そういう訳でっ良い戦いだったわ』
フルエレは今の騒ぎのドサクサ紛れでそーっとその場を後にしようとした。
『まだよっ!!』
『貴方本当にしつこいわね!?』
バッシィーーーン!
この時点でフルエレはどうすれば如何に証拠を残さず、完全犯罪で金輪を使えるかという事ばかり考え始めていた。
ピピピ
蛇輪を追い抜き、勢いに乗るル・ツーの目前に今度は仕込みのはぐれSRVが現れた。
『……おいあいつらの勢いヤバくないか?』
『ヒッあれは砂緒さまのル・ツーじゃ??』
飛び出た二機の操縦者は既にル・ツーの勢いにビビッていた……




