② ユリィーナと雪布留ペアの戦い
ガシャガシャガシャ
雪布留とユリーナ組は他数組の先頭集団と共に順調に志摩地区北海岸を目指して走っていた。
『ユリィーナさんこのままこの状態で海岸に達したら一体どうなるんだろうね?』
『……どういう意味です?』
人見知りの雪布留が気を遣い必死に話し掛けてもユリィーナの反応は薄い。
『いや、その綱飾りの取り合いみたいな感じになるのかなぁーって』
『さぁ……』
『……』
(もぉーーーっ私の事が嫌いならなんで私と組んだのよっ! やっぱりスナコちゃんと組みたかった!!)
雪布留は操縦席の中で目を細め口を十文字に結んだ。
ガシャガシャガシャ
ボシャッ!!
『雪布留さん』
『どうしたの?』
『目の前の数機が消えました』
『え?』
心此処にあらずだった雪布留は見落としたが、ユリィーナは前の数機が消えた瞬間をしっかり目撃していた。
『わっ!?』
『落とし穴ですね』
二機がそのまま真っすぐ走って行くと、目の前には巨大な落とし穴が存在し先頭集団のXS25数機が落ちて出られず蠢いていた。
『助けてー!』
『わーいやーーっ』
『雪布留さん教官に言ってー!』
穴の中から亡霊の様に何本もの魔呂の手が伸びて助けを求めるが、雪布留は涙を流し唇を噛んで無視を決め込んだ。
『ゴメンナサイ、今は助ける事は出来ないのっ貴方達の事は忘れないっ』
雪布留は必死に助けを求める同級生達から目を背け非情にもそのまま素通りした。
ガシャガシャガシャ
『割と酷いんですね。想像だと競争なんてどうでも良いとか言いながら皆を助けると思いました』
等と言いながらユリィーナも助けようとはしない。
『私割と酷い女なのよ、こういう勝負は負けたくないのよねフフ』
『それを聞いて凄く安心しました……』
『え?』
雪布留はユリィーナの声が不敵に笑った気がした。
ガシャガシャガシャ
なおも走る二機……その時であった。
『ちょっと待ったーーっ! 此処は通さんぞヒャッハーーー!!』
『俺たちゃはぐれSRV……』
雪布留達の目の前に、ヴィヴィアとラパン組の時の様な仕込みのSRV隊二機が現れた。
『おりゃあああああああああっっ!!』
斬ッッ!!
瞬間、雪布留の乗る蛇輪の鋭い爪が一機のはぐれSRVの首を吹き飛ばした。
ドーーーンッ! ゴロゴロゴロ……
はぐれSRV隊はあっけに取られ、首が残っている相方は固まって同僚の転がる魔呂首をじっと見た。
『お、俺たちゃはぐれ……あの、その』
うろたえるSRVに対しなおも前に出る雪布留の蛇輪。
ズイッ
『あんた達何者!? こんな軍紀を乱して山賊みたいなコトしてちゃダメじゃない!!』
『い、いやこれは演技で』
『ねえ、ですよねー? 今時山賊て』
SRV操縦者二人は焦りまくる。だが雪乃フルエレには砂緒と出会った時の事もあり、こうした風紀の乱れは絶対許せない行為だった。
『許しちゃおけないわっ、セレネの代わりに私が根性を叩き直す!!』
ジャキッ!
その当のセレネが配置した妨害用のヤラセSRVに雪乃フルエレ女王は本気にして怒り狂い、蛇輪の鋭い両手の爪をワキワキと不気味に構えた。
『ちょっ、この子本気ですやん!?』
『こんな話聞いてないよー』
フルエレの迫力にじりっと数歩下がるSRV。
『さぁかかってらっしゃい!!』
『アノ、雪布留さん……』
冷静なユリィーナは不自然な展開に呆れ返った。
『ヒ、ヒィイイイイもう俺知らねっ!』
『死にたくない!!』
ぽいっカランッ
遂に二機のはぐれSRVは雪乃フルエレ女王のほぼ作り話の最強伝説に恐れをなして木剣を放り投げて逃げ去ってしまった。
ガシャンガシャンガシャン
『あっどこに行くのアンタ達、この卑怯者っ!!』
叫ぶ姿を見てユリィーナは割と雪布留可愛いとさえ思ってしまった。
(でもね)
すっ……
だが彼女のある決意は固くそのまま木剣を拾い上げる。
『雪布留さん、どうぞ』
『へっ?』
さっそく徒競走を再開すると思いきや、ユリィーナが木剣を差し出して来て怪訝な顔をする雪布留。
『丁度良い機会ですわ、此処で貴方と決着を付けたいの。さぁ木剣を!』
さらにずいっと木剣を差し出す。
『ちょっと何を言っているの? 今は徒競走の最中で』
『徒競走なんてどうでもいいの。私が貴方と組んだのはこんな機会を待つためよっ! 貴方に打ち据えられた痛みをまだ覚えてる。今度は負けない!!』
グサッ
待ちきれないユリィーナは差し出していた木剣を地面に突き挿すと、自分の木剣を構えた。
(やっぱりーーー!! 恨んでいたのね……)
雪布留は悲しくなったがやむなしと渋々と木剣を抜いた。
サクッ




