魔呂実2④ 依世さんもどす
依世は思わず無人の魔ローダーグラウンドに呆然として立ち尽くした。
ガタッ
そこに突然物音がして振り返ると、抱えていた白いミニテーブルを置いたばかりのイェラと白い陶器のティーセットを両手に持った猫呼が居た。
「あらっ依世ちゃんじゃない! アンタ行方不明じゃ無かったの??」
「おい衣世ではないか、お前服も髪もボロボロだぞ男に襲われたのか? 復讐するなら付き合うぞっ」
依世はマズイ二人に見つかったと思うと同時に、投獄されたり激動の日々の後で知り合いに再会してホッとしたという気持ちもあった。
「まったく……お姉さまの知り合いはどいつもこいつも。此処に蛇輪や魔ローダーがあるはずだけど、セレネの魔呂実習って乗り込むまでがやたら長いはずよね?」
とにかく最優先事項を聞いた。
「なんかセレネが今日は魔ローダー徒競走するとか言ってて、前より素早く授業が始まったみたい」
猫呼が白い椅子に座りながら話した。
「用務員さんが皆で仲良く走って行ったと言っていたぞ」
「そそそ、だからいっぺんだだっ広い魔呂グラで紅茶しようと思って来たのよ」
二人の能天気な態度に依世は頭を抱えた。
「何でよぉーーー何で今日に限って徒競走なのよっノォオオオオオオオオオオオオオ!!」
そのまま依世は魔力の籠った拳で泣きながら地面をえぐった。
ザシュウッザシュウッ!!
「何の必殺技よソレ」
「復讐するなら付き合うぞ」
割といい加減な二人は異様な状態の依世をしばらく紅茶を飲みながら生暖かい目で見守り続けた。
ファッファーッ!
そこへ東隣のユティトレッド魔道学院生達がいつものオープン魔ーでグラウンドに乗り付けて来た。
「おや猫呼ちゃんこんにちわ……この地面をえぐってる女の子は誰?」
最初に声を掛けたのはラフィーヌであった。
「ヒュ~~なんだこのエロい女は、綺麗な人だ……」
次にアスティーが初対面のイェラに座席から身を乗り出して目を見張った。彼女は露出の激しい水着の様な上着に白いエプロンを装着するという、素晴らしいプロポーションと横乳が露な若い学院生には目に毒の姿であった。
「貴様失礼な奴だな叩き斬るぞ」
「おーこわ」
口笛を吹くという洋画の様な態度の上にふざけて横を向き、さらにイェラの神経を逆なでするアスティー。
「よし斬る!」
冗談が通じない上に嫌いなタイプのチャラい男が出て来てイェラは本気で剣を取り出した。
スチャッ
「バカな男子学生なんてほっときなさいって。それよかフルエレ達目当てなら、彼女らはもう居ないわよ」
「バカとは何だ!」
「ムキになるなバカめ」
「なっ!?」
アスティーを無視して蘭観が出て来る。
「とにかくこの可愛い子ちゃんは誰なんだよ? クク」
「あーーこの子は雪布留さんの妹さんよ」
猫呼が気安く正体を言ってしまう。しかし雪布留の妹と言った時に男共は全員びくっと反応していた。
「ちょっ余計な事言わないでっ!」
依世は烈火の如くに怒ったがアルピオーネは目ざとく語り掛ける。
「通りで……なんと美しい、確かに雪布留さんとそこはかとなく似ていると思いました!」
「確かに凄い美少女だよね、アイドル並みというか。所でセレネ達は居ないってどうしちゃったの??」
ラフィーヌが仕切り直して聞き直した。
「用務員さんの話だと、志摩地区の北海岸までペアで走って行って夫婦岩の綱飾りを奪って帰る魔呂徒競争だとか」
ズズズと紅茶を飲みながら優雅に話す猫呼。
「何だってぇえええええッ!!!」
「ブーーーッ!」
今まで黙っていたルンブレッタが突然大声でしゃしゃり出て来て、びっくりして思わず紅茶を噴き出す猫呼。
「何だよ汚ねえなこのネコミミっ子はよ」
「お前は全員に嫌われたいのか?」
イェラはとにかく態度が悪いアスティーが気に入らなかった。
「一体どうしたんだルンブレッタ?」
アルピオーネが汚れたテーブルを高級なハンカチで拭きながら聞いた。
「大変だっ実は北海岸の夫婦岩は、かつて太古の昔にセブンリーファを作りたもうた夫婦神が二神の永遠の愛の記念に二つの岩に縄飾りを結び付けた……という神話があって、それ以来20機以上の魔ローダーが参加する徒競走で最初に掴んで持って帰ったペアは必ず結ばれるという伝説があるんだっ!」
ルンブレッタは冷や汗を流しながら真剣な顔で解説した。
「えっソレどんな伝説?」
「20機以上の魔呂って妙に具体的な伝説だな」
「つまり?」
「つまり、スナコちゃんが偶然ペアになったチームメイトと結ばれる可能性があるんだっ! そんな事許せないよっスナコちゃんと結ばれるのはこの僕だっっ!!」
ルンブレッタはくわっと大声で叫んだ。
「オ、オエエエーーーーーーー」
その瞬間、今までの激動の日々の疲れとルンブレッタの余りの気持ち悪い発言により、遂に依世の神経は崩壊し、一気に朝食をもどしてしまった。
ダバダバダバ……
突然の美少女の大事故に一瞬周囲の皆は声を失って固まった。




