魔呂実2③ 依世さん飛んでくる。
『セレネ王女殿下、生徒の皆さんそれぞれペアが出来ましたわっ!』
ユーキュリーネはユーキュリネイドの腕を勢い良く上げ、共通回線でセレネに叫んだ。彼女の言う通り30機のXS25や少数の名有り機体は皆すっかり二人一組のペアになって待機していた。
『誰も貴様に報告しろとは言っていない、勝手に生徒の代表の様に振舞うな! あと王女殿下では無く教官と呼びなさい』
『はぁ~い、これは失礼致しましたわ』
今度は存在しないスカートの端っこをぴらっと掴んでお辞儀のジェスチャーをした。セレネにとってはいちいちシャクに障る行動であった。
『最初に言った通り今回の授業は魔呂二機一組で志摩地区の北海岸に行き、夫婦岩から綱飾りを取って一番最初に戻って来たペアが勝者だ。分かったな? よーし、それでは』
セレネはいよいよ魔ローダー徒競走のスタートを切ろうとしたが……
『ちょっとお待ちを!』
ズドド
何機かの魔呂がコケた。
『また貴様か今度は何だユーキュリーネッ!』
『教官魔ローダースキルを使用しても良いのでしょうか? わたくしだけ断然有利になるのですが』
『いちいちめんどくさい奴だな、良いぞ好きに使ってくれたまえ』
セレネは竹刀を差し向けて言った。
『あらっ!? 良いのですのね、それでは遠慮なく』
(なら私が勝ったも同然ですわねオホホ)
生徒会長は操縦席で一人ほくそ笑んだ。
今度こそ気を取り直しセレネはルネッサの腕を上げた。
『よーし、魔呂徒競走スタート、ピーーーッ!!』
勢い良く腕を振り下ろすと笛を鳴らした。それと同時に生徒達の魔呂もペアになって走り始めた。と言ってももともと歩くのにもおぼつかない初心者の集まりである。大抵の生徒達の機体は一緒に走るのにもぎこちない始末であった。
『アハハッ行きますわよ、魔呂スキル神速!!』
バヒュッ!
生徒会長が叫んだ途端にご自慢のユーキュリネイドは残像も残さずに走り去り一瞬で消えた。
『あ、あの会長ぉ……』
後にはペアの書記ルシネーアのゴレムーⅡだけが残された……彼女は操縦席内で燃える様にカーッと赤面しながら仕方なくとぼとぼ後を追い走り出した。
「バカかアイツ、ペアだと言うとろーがっしかも違う方向に走って行きよったぞ!」
セレネ教官は凄まじい動体視力でペアを放置したのみならず、方向まで間違って走って行った事を見逃さなかった。
『では私達も行きましょーだピョン!』
『はい! ふつつか者ですが一緒に頑張りましょう、スナコさんそれに兎幸さんもね!』
『わぁーーい一緒に行こっ!』
(リュデュア・セリカ性格良い子やないか)
名前を呼んでもらって大喜びの兎幸が魔力を供給するスナコのル・ツーとリュデュアのスパーダも遅れて最後に出発した。それ以前に雪布留とユリィーナのペアもそつなく走り出していた。
ズシャズシャズシャッ……
『ふぅ全機出発したか、もう出て来て良いぞメランさん』
ばっさぁ~
セレネの言葉を合図に小丘からカモフラ用のネットが飛び上がり、中からメランのSRX狙撃カスタムが出て来た。だが中身は見た目だけル・ツーに近付けた通常機である。
『セレネ修理が完了したら必ずル・ツーは返してもらうからね!』
『はいはい、そんな事よりあたしと渋々ペアを組んで下さい。生徒のフリして綱飾りを奪いに行きます!』
『へっ何言ってんの? 私はまた不審機が出て来た時の為に待機してたんだけど』
『状況が変わりました。あたし達で綱飾りを奪いに行きます! それとあちこちに待機している不審機対策用のSRV部隊も生徒達の妨害に回します!』
『へっ壊れたの頭大丈夫??』
『良いから行きますよっ!』
メランを無視して、専用機ルネッサから一般機XS25に乗り替えたセレネも走り出して、メランも訳も分からずライフルを置いて後を追って走り出した。
とその魔呂グラウンドへ一人だけテンションが違い過ぎる美少女が飛んで来た。
ギューーーンッ!!
「間に合えっ間に合えぇええええええっっ!!!」
しゅたっ!
スー○ーサ○ヤ人の様に魔力を放出し続け、ようやく目的地に着地した時そこは既にもぬけの殻であった。
ガラーーン……
「あれー?」




