魔呂実習パート2 ② ペア決め
(ギック、うっ鋭い……)
しかしギクッとなったのはセレネ教官一人であり、まだXSーV1SAKURAの脚部しか装着出来ておらず両腕が無い修理途中のル・ツー千鋼ノ天が生徒達の魔ローダーの間に立つ姿を見れば、ユーキュリーネの指摘が正解であろう事は誰の目にも明らかであった。
『どうですの? そこの所をハッキリして欲しいですわっもしそうならセレネ王女が嫌う職権濫用ですわよ』
王立のユティトレッド魔道学園内ではユティトレッド魔道王国の王女として権力を行使しない……それがセレネ王女のポリシーだったのだが、まさに今回ユーキュリーネの指摘通り彼女が好きな砂緒をカヴァーする為だけの完全にエコひいきな措置であった。
『ぐむぅ……そ、そそそれは』
無視すれば良いのに根が生真面目なセレネはユーキュリーネに言いくるめられそうになる。
「むぅマズイですね、セレネが生徒会長に負けそうになっています何故か心が痛みます……」
ル・ツーの操縦席内でスナコが他人事の様に呟いた。
パコッ!
「お前のせいやないかい! 砂緒、少しは心が痛んで助けないととか思わないの?」
言いながら兎幸がスナコの頭を勢い良く叩いた。当たり前の話だが、二人きりしか居ない操縦席内の会話ではスナコは砂緒の地声で話している。
「どちらかと言えば私がセレネに甘えたいんです。私が彼女を助ける筋合いはありません」
「甘えんぼさんだなあキャハハハハ」
等といい加減な事を言いつつ、砂緒と兎幸は他人事の様に傍観した。
しかしこれは砂緒の本音では無く、いくらチャランポランな砂緒でも戦場でセレネが危機に瀕すれば当然助けるに決まっている。だがル・ツーの修理からしてセレネのごり押しが発端であり、今は騒動相手の生徒会長ユーキュリーネもセレネにもどっちの肩も持たないという砂緒なりの厳しい判断……かも知れなかった。
「うむうむ」
「じーっ」
しかしやはり兎幸はただ単にめんどくさいだけだろ、という白い目で見た。
『ユーキュリーネさん、実は私今日セレネに闇雲に走りたい、ただただ海に向かって走りたいって言っていたの。だから多分スナコちゃんは全然関係無いと思うのよ』
案の定雪布留が強引過ぎる助け船を出した。
(フルエレさん無理矢理やな……)
セレネはこんな言い訳が通用する訳が無いと思ったが……
『まあっ! そうなのですわね、セレネ教官は雪布留さんの願いを聞き届けただけでしたのね。わたくし納得致しましたわ』
いつも意地悪な生徒会長があっさり納得してセレネはコケた。
『有難う生徒会長さん! これで一件落着ねっ』
『ええ、私雪布留さんの言う事は何でも信じますのよオホホホホホホ』
『まあっ!』
生徒会長は生身でもいつもする様に、わざわざ魔呂の巨大な手の甲を口元に当ててオホホ笑いをした。それはそれでセレネの癇に障ったが、雪布留に救われた以上もう何も言えなかった。
ドバシバシッ!
セレネのルネッサが再び巨大竹刀で地面を叩きまくる。この異世界には刀は無いが竹刀はあった。
『よしつまらん横槍が入ったが授業再開だ。まずはユティトレッド志摩地域の北海岸まで走る為の二人一組ペアになってもらおう! 始めっ』
ピーーッ!
セレネ教官は操縦席内で笛を吹いた。
『雪布留さん、どうぞご一緒してくれません?』
『雪布留さん、今度もまた私とペアになって下さい!』
セレネが言い終わった途端に待ち構えていた様にユーキュリーネとユリィーナが雪布留に手を差し伸べ、まさに彼女を取り合いの状況となった。生徒会長は雪乃フルエレ女王にお近付きになる為に、ユリィーナは前回の雪辱を晴らす為に敢えて接近しているのであった。どちらにしろフルエレには迷惑なパートナー候補である。
『えっえーっ困っちゃうな!』
蛇輪に乗る学園では雪布留と名乗るフルエレはぶりっこの様に両者を見比べた。
ザザッ
そこへすぐに秘匿通信が入る。
『フルエレさんどっちが良い?』
『どっちも嫌よ。わたしはスナコちゃんと組むわ!』
『ダメですっ!!』
即座に血相を変えてセレネが叫ぶ。
『えっ何で?』
『砂緒とはあたしが組みます』
『まっ何かあるんでしょ??』
『ななな、何もありませんよ』
あからさまに慌てだしたセレネの声。
『まあいいわ、セレネにはいつも助けられてるしユリィーナさんと組むわよ。前のお詫びも兼ねてね!』
『有難う御座います。でもくれぐれも喧嘩しないで下さい!』
等と二人の裏会話によって決まり、雪布留の蛇輪はユリィーナのXS25に手を差し伸べた。
『有難う雪布留さん、仲良くしましょう!』
『う、うん』
だが前回フルエレに袋叩きにされたユリィーナの目は怖かった。
『まあ残念です……でも仕方ないですわ、ルシネーアさん又組みますわよ』
『は、はい喜んで!!』
無視されてションボリしていたゴレムーⅡの書記の目が輝いた。
『じゃ砂緒……一緒に』
教官の癖にセレネは恥ずかしそうに一応生徒のスナコのル・ツーを見た。
『リュディア・セリカお嬢さん、またあぶれていますね? 是非一緒に走りましょうだピョン』
『えスナコさん私なんかで良いのですか? 凄く嬉しい……是非』
『うん友達になりましょうだピョン!』
今まさにあろう事か砂緒は兎幸の代声で、一人ペアが作れず浮いていたセリカのスパーダに話し掛け手を差し伸べていた瞬間であった。それを見てセレネは又コケた。
『もうスナコのアホッ!!』
『どしたんです急に?』
『うるさいわっ』
ブツッ
セレネは何故か頬をぷくっと膨らまし秘匿通信を切った。




