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疲れて帰還


「という訳だ! ココナツヒメ様のお許しが出たぞっ皆の者続け!!」


 サッワは再びレヴェルから急ぎ降りると、厳しい顔で熊達と抱悶(だもん)派の家臣兵士達の前で叫んだ。


『おやっサッワちゃん何処へ行くのかしら? さぁ回復したわたくしの元に来て喜びを分かち合いましょう!』


 背中を向けていたサッワがビクッとなった。一斉に兵士達が彼の方を向く。


「申し訳ありません。そうしたいのはやまやまなのですが、無用ないざこざや暴発が起こると、折角のココナ様のお心遣いが無駄になってしまいます!」


「成程、うまい事言うではないか! では三魔将の一人スピネルもサッワ君に協力しよう。皆無駄な事をするなさっさと歩け。此処に残る者も妙な挑発はするなよ」


 言いながらサッワに続いてココ姫に背を向けた。


「スピネルさん、ありがとう!」


 二人の会話を聞いて、実力未知数のサッワは兎も角、剣術の御前試合などで常に非常に強い姿を見せている確かな実力者のスピネルまでもサッワに加担した事で、もはやわざわざ今更衝突を蒸し返そうとする者は居なかった。こうしてココ姫と名前を変えたココナツヒメによる抱悶(だもん)暗殺から始まるまおう城の争乱は一応終結した。

 だが中途半端な結末に面白く無いのは当のココ姫本人であった。当然メドース・リガリァ及び旧ニナルティナ王国遺臣達もこのまますんなり指を咥え諦める訳が無かった。




 パチッ

 クレウは魔呂のスピーカーを切った。


「ココ姫、くま牧場城に魔ローダーはあるのかい?」

「ええ、型落ちの旧式が何台かありますわ。けれど戦力的には大した事ないはずよ。わたくしが本気で攻略すれば一日で落城も確実ですわね」


 ココ姫は目を細めてぞろぞろ帰る熊達を眺めた。


「ならいいじゃないか。サッワもスピネルも説得すれば必ずこっちに戻って来てくれるよ」

「ええ、落ち着けば出頭命令を出して会議を開き、抱悶ちゃんに代わり私のまおう就任を公に宣言致しますわ。その時に二人の真意を問い質しますから……」

「あまり挑発しないでおくれ、俺の数少ない友達なんだ」


 ココ姫は目を閉じて夫の為に不満を押し殺した。


「わかりました。それと城中を端から端まで全部探して抱悶ちゃんの遺体を何としても見つけ出すのよ!」

「そうだね……」


 二人はその遺体を紅蓮達が無事運び出した事など知らなかった。



 不安の中でも信頼するスピネルと共に兵士達を誘導する事になりひと安心したサッワであった。


「このまま何事も無く丸く収まれば良いのですが……」

「そんな訳があるまい。こんな近くで対立する二つの城があれば必ず戦が起きるぞ。ワクワクだなフフ」


 サッワはスピネルには紅蓮(グレン)達が抱悶の遺体を生き返らせようとしている事など、まだ決して口には出せなかった。そしてその時、熊達の隊列では先程の銀色の魔ローダーの話題で持ち切りであった。


「ガーーッ?」(さっきの魔呂、鮭っぽく無かったか?)

「ウガッ!!」(俺もさっきでっかい新巻鮭に見えたぜっ!)

「ガウガッ」(俺も俺もっ!!)


 雪乃フルエレ女王と熊達のセンスは大体同じであった。




 ー一方空を飛ぶそのストラトスフィアの機内。


瑠璃ィ(るりい)助かったよ、初めて君が役に立った気がする。けどどうして場所が分かったの?」


「もぅ初めてって失礼やなあ! 実はなストラトスフィアには高度な魔法レーダーが搭載されとってな、暇な時に監視してたら白鳥號(はくちょうごう)の飛行を察知したんや……そっからずっと後付けてたんやで!」


 紅蓮の目が点になった。


「エ、マジデ!? 暇つぶしにレーダー監視を?」

「マジでマジでやでっ!」


 紅蓮はならもっと早く加勢してくれても良いのにとも思った。


「じゃあでっかい犬と依世(いよ)の事は?」

「あっ! ちゃんと今もレーダーで捕捉して追跡してるでっ!」

「便利過ぎでしょ……てか片手は!? まおう軍との戦闘で?」

「それはヒミツです」


 紅蓮は瑠璃ィが何かやましい事をしたなと白い目になった。だが彼女の言う通りマーカーを付けたフェレットと依世はいとも簡単に見つけ出す事が出来た。




 ゴォーーーッ!!

 既に暗い森の中で突如現れる不思議な機影に最初はびっくりしながらも、手を振る紅蓮に気付いて手を振り返す依世やカヤが次々に合流して行く。そうして一行は森の中で一旦落ち着き再会を喜び合った。


「フェレットありがとう、君のお陰でカヤちゃんが助かったよっ!」


 紅蓮は普段あまり仲が良くない巨大なフェレットの頭を撫ぜた。


「へへ、それ程でもないぜっ」

「うんでも用済みだから元に戻ってねっ!」

「へっ!?」


 だが突然、依世にぽんっと小さな姿に戻されて代わりにカヤは頭を撫ぜ続けた。


「ありがとう犬さん……」


 やがて機内に抱悶(だもん)の遺体が運び込まれ依世(いよ)とカヤとフェレットも操縦席に入り、一行は一路同盟の地に帰った。だが機内は再会の喜びを過ぎると抱悶の遺体を中心に乗る状態で、瑠璃ィ以外皆一様にどんよりとした顔をして口が重かった。


挿絵(By みてみん)

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