カヤ逃走……
ドパパパン!
一方、カヤを背中に乗せた白い大きなフェンリルのフェレットは、魔銃の乱射から逃れる為にピョンピョンと飛び跳ね続けている。
「ちっ広いとは言え、いつか追い詰められんぜっ!」
「もういいわ! フェレットはそのままカヤちゃんと逃げて!!」
今だ姿を消したままの依世が大声で叫ぶ。
「何処へ!?」
フェレットは攻撃を避け続けながらあらぬ方向に大声で聞き返す。
「何処へでも良い! 後で合流する!!」
次いで紅蓮アルフォードも叫んだ。
「おい逃げるとか言ってるぜ」
「逃すな!」
「出入口を撃て!!」
今度はその会話に即座に兵士達が反応して中央扉を固め、その上飛んで逃げれそうな天井の破れに集中砲火を浴びせ弾幕を形成する。
ドパパパパパ!
「ちっもうこれじゃあ逃げれねえ! 兵士達を叩き殺して行くが良いだろ!?」
もうこれ以上逃げ続ける事に業を煮やしたフェレットが、鋭い牙・爪や口から吐く衝撃波で兵士を殺して行く事を決断した。
「それはダメ! とにかく逃げて!!」
「だから天井から逃げる時にカヤを狙い撃ちされるって! 扉の兵士を殺して破って行くしかねーぞ!」
「だからダメなんだってば!」
両派入り乱れる混戦の中、依世に絶対服従のフェレットですら彼女と揉め始めた。
「犬も透明化するかもしれん、間断なく天井の切れ目を撃ち続けろ!!」
ドパパパパ!
兵士達は白鳥號が侵入して来た壁と天井の破れを十字砲火で猛烈に撃ちまくる。
「仕方が無い、フェレットが言う通り魔銃を持った兵士達だけでも殺して行こう!」
「そ、そんな」
等と二人が逡巡している時であった。
「ウガーーーッ!!」
突然その天井の破れから大量の熊達が侵入して来た。
ビシッドシッ!
当然の様に同時に魔銃弾に撃たれボトボト落ちて行く。しかしそんな事はお構いなしに次々に巨大な熊が大量に侵入して来て、飽和攻撃の様に魔銃弾の弾幕を圧倒して行く。
「ウガーーーッ!!」
兵士達が異様な光景に圧倒されている内に、まおう城玉座の間の一角は熊達に占拠されて行く。
「な、何だこの熊達は!?」
「くま牧場城のくま達では!?」
ザシュッビシュッ!!
「ベアーーッ!!」
「ぐわーーーー!!」
等と言っている間も無く兵士達が熊のするどい爪で切り裂かれていく。
「う、撃て! 熊達も撃て!!」
依世も紅蓮もフェレットもカヤも、ココ姫派と抱悶派が混戦する上にさらにダメ押しに現れ、暴れるまくる熊軍団というカオス過ぎる状況に一瞬ポカンとする。
「ベアーーッ!」(何をしている犬、今の内に逃げろ!!)
熊達のリーダー、抱悶のお気に入りの熊のベアーがフェレットに呼び掛ける。
「お、おう何かよー分からんが恩に着るぜ!」
シュタタッ!!
ベアーの合図でフェレットは天井の破れに向けて走り出した。
「カヤが逃げたぞ撃て!!」
ドシュッ!!
直後、放たれた魔銃の射線に数匹の熊が飛んで立ちはだかる。熊の分厚い胸板から鮮血が溢れ出した。
「い、嫌ッ!? 熊さん達」
カヤの目に涙が溢れる。
「カヤちゃん行くしか無いぜ、しっかり掴まんなっ!」
シュタタッシュタタッとフェレットはスピードを上げた。その間も次々に狙い撃ちされるが、全て熊達が肉の壁となって弾を防いだ。
「アンタ達止めなさい!」
「くそう!」
ドシュッバキッ!
依世と紅蓮も歯を食いしばりながら兵士達を気絶させて行く。
「とにかく天井の破れを集中的に撃て撃て!!」
ドシュドシュドシュ!!
しかし熊達が組体操の要領で積み重なる様に壁になって行く。
「熊さん、ゴメン……なんで!?」
カヤが泣き叫んだ。
「ベアーーッ!!」(カヤちゃんと抱悶ちゃんは俺たちのアイドルなんだぜっ!)
熊のリーダーベアーは親指を立ててカヤを守る壁となった。
シュタタッ!
直後、遂にフェレットは天井の破れから城の外に出た。
「恩に着るぜ!」
「熊さんっ!!!」
そのままフェレットは物凄い速さで城の屋根の上を伝い、北の森の中に飛んで逃げて行った。どんな兵士にももう森の中に紛れた彼らを見つける事はもはや不可能であろう。
「逃げたわっ!」
「よし、僕らも逃げるぞ!!」
だが依世と紅蓮のその声をスピネルが聞き逃さなかった。
ーまおう城魔ローダー庫。
「レヴェル起動!!」
ヒュイーーンヒュイーーーン!
結局魔ローダーに乗り混乱を収拾する道を選んだサッワが、手短な魔呂に乗り込んで起動させた。




