眼前の魔ローダー
「貴様立て! いちいち土下座等するなよ、よし勝負しよう僕に一太刀でも浴びせる事が出来れば」
ポカッ
紅蓮が厳しい顔で言い始めた所で、突然依世が頭を叩いた。
「そんな時間無いでしょ!? 今一分一秒でも時間が惜しいのよ。はいはいパチパチ変態少年の癖に好きな子の為に良く頑張りました。じゃ早速出発ねカヤちゃん安心して」
「う、うん」
(へんたい少年?)
サバサバした依世はいろんな事を省略して一気に二人の保護を決めた。
「あ、ありがとうよ」
「ちっ」
紅蓮はあからさまに嫌な顔をした。
「よ~し行くわよ出でよフェレット!」
べちゃっ
勢い良く高く放り投げたフェレットは石畳みに叩きつけられた。
「きゃあ!?」
「あいけね」
依世が忘れていた魔法動物の魔法封じの首輪を、サッワがスペアキーで外した。
カチャリッポンッ!
気を取り直して途端にフェレットは本来のフェンリルの姿を取り戻した。
「わぁおっきな犬さん!」
「ようやく俺も活躍出来るぜ、よしカヤちゃん乗んな」
カヤは早速フェレットに跨った。そうして紅蓮が凍った抱悶の遺体を大切に抱え、皆は早速走り出した。
「きゃっ! 牢番さん……」
「なんて事だ……」
出発してしばらく、牢番所から程なく離れた場所に優しい牢番の死体があった。拘束してた相手とは言え紅蓮と依世は何とも言えない気持ちになる。
「勘違いするな、僕じゃ無いからな!」
「そうだよ!」
二人は慌てて首を振った。
「なんだか可哀相だよ」
「騙しててゴメンな」
紅蓮は女装用カツラを牢番の手に握らせた。
「さっきも散発的な戦闘を見た。通常の通路を通って行けば必ず誰かに見つかると思うが」
サッワが通路の先を見て言った。
「僕達を舐めるな。全部瞬殺してやる」
「そうじゃない! カヤちゃんの姿をなるべく見せたくない。余程信用出来る相手にしか今は居所を掴まれたくないんだ」
しばらく紅蓮と依世は沈黙した。納得してもなるべくサッワの言葉に頷きたく無かった。
「そうだわ、抱悶ちゃんが落ちて来た崖を登れば一直線に上に出れるよ!」
「簡単に言うけど、高い高い狭い崖を登れんのかよ」
「舐めるなって、依世は飛べるし僕は少しの足掛かりでジャンプ出来る」
「カヤちゃんと僕は?」
「ちっ男は嫌だが仕方が無い、俺の背中に乗れ」
結局サッワもフェレットの背中に跨って、全員で地底湖の間に戻った。そこには幸い誰も居なくて、皆は暗い高い高い崖の上を見上げた。
「犬、本当にコレ登れるんかよ?」
「ガウッ! お前だけ食ってやろうか?」
「食べちゃダメ」
「ゴメンなさい犬さん怒らないであげて」
カヤがフェレットの頭を撫ぜた。
「カヤちゃんはいいんだよ~」
「ロリコンか?」
「スピード感が掴めないんだが、とにかく僕が一番最初に着く様にしてくれ。でないと状況を見れないからな」
「命令すんな!」
「本当よ!」
「あ、コラッ」
一番最初に空を飛べる依世がスーッと飛翔を始め、次に抱悶を抱えた紅蓮が大ジャンプの後に、器用に崖の取っ掛かりを次々にピョンピョンと渡り飛んで上昇して行く。最後にフェレットが紅蓮と同じ要領でタンタンシュタッとジャンプを繰り返し始めた。背中の二人は激しい動きにガックンガックンと揺れまくった。
「キャーーーッ!?」
「うわあああ」
「サッワしっかりカヤちゃんを押さえとけよ!」
やはり一番時間が掛かるのは二人を乗せたフェレットで、途中休憩代わりに紅蓮と依世は二人と一匹を待つ事も多かった。
「光が見えて来た! 頼む僕を一番先に上げる様にしてくれ!!」
「はいはい、分かったわよ紅蓮少し待ってあげて。カヤちゃんこっち来て! フェレット最後は慎重に上がってみて」
「はぃ」
でっぱりに小鳥の様に停まった依世に、カヤは恐々しがみ付いた。
「逃げるなよサッワ」
「当たり前」
紅蓮とフェレットが素直に従ったのは、明らかに戦闘音が激しくなって来たからであった。
ドドーン、ズズーーン……
サッワだけを乗せたフェレットは崖を登り切り、少しだけ顔を覗かせ激しい戦闘音が続く玉座の間を垣間見た……
「……」
「ちょっとどうしたの、何が見えるのよ??」
黙り込むサッワに依世が堪らず聞いた。
「何故だ、白鳥號が戦っている」
「え?」
「何??」
紅蓮と依世に衝撃が走った。




