サッワの選択、城内戦闘
かなり高い場所から落ちて来るのか、あちこちに当たり続けた後に最後に目の前に影が落ちて来る。
ドボーーーーーン!!
その何かは地底湖に真っすぐに落ち、大きな水柱が上がった。
「きゃあああああ!?」
「人だっ!!」
落ちる瞬間、それが手足のある人の形だと分かった時、カヤは大声で叫びサッワは反射的に煌びやかな軍服の上着を脱いで水面に飛び込んだ。
「サッワ気を付けて」
人が沈み込んだ場所へ泳いでいくサッワをカヤは心配そうに見つめる。やがてサッワは奇跡的に沈んだ人らしき物を抱えて岸に上がって来たが……
「この人、いやこの方は……はぁはぁ」
「いやあああああ!? お姉さま!!」
カヤが泣き叫びながら名を呼んだ様に、それはココ姫と名を変えたココナツヒメに殺害され落とされた先のまおう抱悶であり、カヤの大切な姉であった。しかしその姿は脈を確認するまでも無く、大穴が開き無残に確実に死亡していた。
「見てはダメです」
「いやっいやぁあああああ」
サッワは抱悶らしき物に上着を被せ、泣き叫ぶカヤを抱き寄せた。しかしその間もカヤの慟哭と叫びは止まらない。サッワの楽観的な頭でもグラグラと世界が回る程に混乱の極みに達した。そして彼が思い描いていたカヤと結ばれ王族として悠々自適に暮らすという未来が、一瞬で崩れ去った事も理解していた。
(これは……このクマミミの小さな体と服装と髪型は完全に抱悶様、でも彼女は空を飛び凄まじい炎を出し無敵の強さなのは何回も見ている。こんなあっさり誰かに討たれる様な御方では無い。とすれば誰か味方が不意打ちを!? 敵はこの城内に居る?? カヤは安全なのか、敵は裏切り物とすれば同じ血族のカヤちゃんも真っ先に狙われるのでは??)
何度も死体とカヤを見比べた。
「サッワサッワ、うわああああいやあ」
「カヤちゃん落ち着いて、僕がなんとかします。だけど君の命も危ない。だからもう大声は出さないで」
サッワは王族の未来は消えたかも知れないが、自慢の笛の音を褒め続けてくれるカヤという少女の命だけは全力で守ろうと決めた。
「う、うん」
「待ってね考えるから」
(誰かに助けを求めねば……一番気心の知れたクレウさんはココナ様とトコナッツに居るし、一番頼りになる強いスピネルさんはこの時間は確実に配送に行ってる。いや……まさかスピネルさんが抱悶様を? いいや、スピネルさんは変な人だけど理由無くそんな凶行に走る人じゃない……城外に出てスピネルさんに助けを……いやでもスピネルさんが抱悶様を生き返らせるか?? 奥さんにも迷惑が掛かる……生き返らせる……ハッそうだ、同盟に行けば白鳥號がある!! 城を抜け出し白鳥號に乗ればあるいは)
サッワが考えた事は全て現実と逆であった。しかし彼は同盟に行くしか無いと思った。
「サッワ、サッワどうするの??」
「抱悶様を背負って、此処から一番近い地下牢に行くよ」
カヤが意味が分からないという顔をして戸惑う。
「え?」
「地下牢の者が同盟にツテがあります。その者に命じて同盟に行き、白鳥號に乗ればお姉さまは生き返ります!!」
(望み薄だが……)
しかしサッワは精一杯強がった。
「本当? 本当なのね??」
「本当だよ」
「う、うん……サッワの事信じる」
サッワの心の中は不安と恐怖しか無かったが、カヤを守る為に頷いた。抱悶の遺体を背負いサッワとカヤは早速地下牢に向けて、気を付けながら移動を開始した。
ー同じ頃のVIP用地下牢。
ズズーーン、ドドーーーン……
地下にまでおかしな振動が続き、紅蓮と依世と優しい牢番は顔を見合わせていた。時折パラパラと天井から埃や小石まで落ちて来る。しかし普段から人も近寄らない地下の此処では、上の状況は全く分からない。
「あの……牢番さんコレは一体??」
「絶対ヘンだよねえ怖いよっ!」
「実は隠してたけど、俺下っ端なんだ。だから俺も良くわからねえ」
「うん何となく気付いてた!」
「酷いな」
等と会話している最中であった。
『ウーーーーーーッウーーーーーッ城内戦闘発生! 各員は担当部署で状況に備えよ! アッ』
変な館内魔法放送があったかと思えば、途中で切れた。
「えっ? 城内戦闘て何なの怖過ぎるわ」
「アッて何?」
「俺見て来るよ、二人とも気を付けててくれ」
牢番は開けてやれない事を詫びつつ離れようとする。
「牢番さんも気を付けて!!」
依世は思わず叫んだ。




