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まおう抱悶の……


 ヒュイーーンヒュイーーン

 PCの起動音の様な独特の高音の魔法システム起動音が操縦席内に鳴り響く。クレウが力を込めて操縦桿を握ると、あちこちの魔法警告灯がぱっぱっと点灯して行く。


「重い、これが魔ローダー!?」


 雪乃フルエレ女王やセレネ所か、一般の魔ローダー操縦者よりも格段に魔力が低いクレウは肩から全身にかけてズシッとのし掛かる様な重みを感じた。もしこれが立ち上がって歩く様な場面だと、途端に彼は血を吐いて死んでいたかもしれない。


「あー?」

「ココナさま、ご安心を……行きます! 回復(超)!!」


 パシュウッ!! キラキラキラ……

 胴体からにゅっと伸びた手を操縦席にかざし、二人の真上にキラキラ粒子が舞い降りた。


「あーーーっ!」

「ダメか……いやまだまだっ! 私の魔力が擦り切れるまでっ!!」


 彼はスタンバイの表示を確認するとひたすら魔ローダースキル回復(超)を掛け続けた。




 パシュウッキラキラキラ……


「あーーー?」


 何度も何度も回復(超)を掛けてもココナツヒメの様子に変化は無い。段々とクレウに焦りや虚しさの様な気持ちが込み上げて来る。


「はぁはぁ……やはり私には無理なのか……もうすぐ夜……いっそ抱悶(だもん)さまに届け出て」


 スッ

 クレウが呟いた所でココナの白魚の様な白く細い指がすっと彼の手に重ねられた。


「ハッココナさま!?」

「あーー?」


 だが感情に変化は無かった。


「いや、ココナ様自ら魔力を融通しようと……回復に向かっておられる!!」


 クレウは言いながらココナの手指を操縦桿に絡ませた。


「……二人で一緒に参りましょう。例え魔力尽き果てようとも一緒に繰り返すのです」

「あ」

「回復(超)!!」

「あー!!」


 そのまま夜になっても二人は果てるまで回復(超)を掛け続け、その森の一角には不可思議な色とりどりの光が溢れ続けた。




 ー次の日。

 まおう城抱悶の玉座の間。


「ふーー暇じゃわい。くま牧場城にでも行って熊のベアー達と遊ぼうかの。カヤとサッワはどうしとるのじゃ?」


 殆ど政務を部下に任せきりの抱悶は暇を持て余していた。


「またいつもの場所にて笛をお吹きに」

「あやつらも好きよのう。わしも一度聴いてやるかの?」


 等といつもの日常の風景であった。そこに慌てた顔で一人の家臣が報告に来た。


「あのう、トコナッツから急ぎ帰って戻られた三魔将クレウ殿とココナツヒメ様が是非にまおう様にお話しがあると」

「なんじゃ? なんであ奴らが勝手に戻って来ておる。わしは忙しい明日で良いのじゃ」


 家臣は恐る恐る言った。


「それが車椅子をお押しになり、もう扉の外にまでお越しに。是非にとの事で、私もお断り辛く」

「何で勝手に戻って来た上に何用じゃ、めんどくさいのう」


 等と言いながら、板挟みの家臣に配慮してクイクイと入れて良いと合図した。



 カラカラカラ

 クレウがココナが座る車椅子を押して玉座への坂を登って来る。その様子を抱悶は目を細めて眺めて待った。


「抱悶さま」

「何じゃクレウ、貴様に帰って良いとは言うておらんぞよ」


 恐ろしい顔で二人を見下ろす。


「……あ、あの……ココナ様が是非にと伝えたい事があると」

「はぁ? ココナの奴が喋れる訳がないじゃろがい!」

「い、いえ……是非に……一度お耳を」


 クレウは冷や汗を流している。


「なんじゃあ、ではもっと近こう寄るのじゃ」

「はは」


 クレウは車椅子を押した。そして二人は玉座の真ん前までやって来る。


「ー。」

「何じゃ、聞こえんぞ」

「あの、ココナさ、まは……お声ち、小さく、お耳をお側に」

「何を焦っておるんじゃ?」

「ー。」

「?」


 抱悶はココナのぱくぱく動く口元に耳を近付けた。

 

「ごくっ」


 クレウが唾を飲み込む。


「……何じゃ、やっぱり何も言うておらんぞ?」

「だもん……さま」

「!?」


 ザシュッ!!

 ココナが小さく名前を呼んだかと思った直後、彼女の掌から凍て付く太いツララの刃が伸び、目の前に立つまおう抱悶の心臓を一気に貫いた。


「ふっ」

「うぐっ!? がはっっ!!」


 ぶしゅっ

 まだまだ実年齢は子供の抱悶の口から大量の血反吐が噴き出した。

 シュッ


 心臓から氷柱を引き抜くと、ココナは車椅子からすっと立ち上がる。恐ろしく冷たい顔で主人であるまおうを見下ろした。


「何故、もっと回復を掛けて下さらなかったの?」

「バカ……め、はくちょう……ごう……」


 クレウの目の前でまおう抱悶は口と心臓から大量の血を流しあっさりと絶命した。


挿絵(By みてみん)

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