二人の白鳥……③ 決意の起動
「むぅ確かに不自然な木々の切れ目が……」
いつでも自分達だけでも逃げれる様に、背中にココナツヒメをおぶったクレウが慎重に先に進むと、あちこちに妙な切り株や裂け目を見せる木の幹が散見出来る。謎のモンスターから二人を守る様に護衛が周囲を固めながら歩いた。
しばらくしてまた報告が入る。
「クレウ様、また斥候からこの先に巨大生物の巣の様な構造物があると!!」
「巨大生物の巣だと!?」
クレウは気色ばんだ。
「はい、不自然にこんもりした小丘にちぎれた木々が折り重なっておると。完全に巨大生物か怪鳥の巣にしか見えぬと」
紅蓮と依世が白鳥號に施した木々を重ねた偽装は、上空から見て森の緑に隠れるが真横から見ると不自然極まり無かった。
(むぅ、明らかに巨大モンスターが居る痕跡、ココナ様の願いは叶えたいが状況は変化した……部下達も疲れておる帰るか)
どこまでも魔ローダーに興味が無く、すっとぼけたクレウであった。
「ココナ様、申し訳ありませんここらでそろそろ帰……」
ぽかっぽかぽか
帰還を言い掛けた直後、背中のココナは思い切りグーでクレウの頭を叩き始めた。
「あーーっっ!!!」
「痛いっうっ痛いけど嬉しいです、もっとやって下さい」
クレウにとってすれば彼女がどんな形でも意志表示してくれる事は至福の瞬間であった。部下達が白い目でじーっと見ている。
「はく……ちょう」
「分かりました。この巨大な巣はココナ様が幼き日に見つけた巨大な白鳥型モンスターの巣なのですな?」
「あっあっ!」
ココナツヒメは必死にうんうんと返事している様に見えた。
「分かり申した! 私めは貴方様と共にこの怪鳥に食べられましょう」
「ええっ!?」
部下達が色めき立つ。
「そなた達はそこで待っておれ!」
「ハッ!」
部下達は二人が食われた時点で逃げようと決意した。
ざっざ
クレウは内心非常に恐怖しながら巨大な巣状構造物に向かって進んで行く。近付くにつれてその物体の異様さが際立った。巣と言っても折り重なる木々はカツラの様に上部に積もっているだけで、下部の小丘はあたかも透明な座布団でも置いてある不自然さであった……
「あーーっ!!」
「ん、透明……透明!? ハッ私の専門分野ではないかっこれは透明化偽装……古代人の遺跡か何か!?」
どこまでもとぼけていた。彼は専門分野に恐怖心が消え去り、走って接近すると透明な小丘に手を付いてみた。
トントン
明らかに感触があった。
「あ?」
クレウは透明な壁に掌を付くと目を閉じ精神を集中させた。途端に彼の手を中心に不思議な魔法光が発生する。
「その掛けられし魔法偽装を解き、真の姿を現せ、ツェアシュトロイエン!!」
シュバッッ!
クレウの手から発せられた光が透明な物体を一周して行く。
バリバリ!
点滅する様に忽然と魔ローダー白鳥號の飛行形態が出現した。
「はくちょう」
「ココナさまこれは白鳥號!? 同盟に奪われたのでは無かったのか、何故この様な場所に!?」
クレウの後ろでココナは頬ずりしそうな程に手を伸ばしていた。彼はゆっくりと彼女を降ろしてあげると、白鳥號にもたれ掛かる様にして涙を流して本当に頬ずりした。
「あーーー」
「彼女はずっとこれを感じて……なんとけなげな」
クレウも涙を流した。
「あっあっ」
「早速まおう城に帰還してまおう様に報告を……いや回復(超)を掛けて下さらないのが当の抱悶様ではないか。スピネル殿……はなおさらダメだ。ではサッワ殿は、彼は今カヤ殿と幸せな生活を築く事で頭が一杯。優しい彼を疑う訳では無いが、万が一まおう様に報告されたら没収されかねん。自分がやるしかない!!」
決意を固めると再び叫ぶココナをおぶって部下達の元に戻った。
「これより私が調査を開始するゆえ、その間近付く者があれば全て斬れ!! 此の事は全て他言無用とする。破った者も斬る!!」
「は? はいっ!」
部下達は慌てて白鳥號の周りを固めた。
バシャッ!
ココナを背中におぶったまま機首部分によじ登ったクレウは、なんとか外部操作盤を発見しハッチを開けた。
「ココナさま、さあお座りを」
そう言って彼は、自分が座った操縦席のシートの膝の上に彼女を座らせた。
「あ?」
「白鳥號起動!!」




