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二人の白鳥……② 木々の中で


 ー次の日。

 一応まおう軍三魔将であるクレウの部下達は、昨日の内に大急ぎで山中遠征の準備を終えた。ただ単に食料や野営用の天蓋や武具の準備だけでは無く、一番の問題であるココナツヒメの車椅子に木の棒を何本も通し、あたかも貴人の輿の様な風情にするのに意外に手こずった。


「あーっあーーーっ!」


 手を叩くという事は無いのだが、ココナツヒメは子供の用に車椅子の上で喜んだ。


「おおっココナ様がこんなにお喜びに。私は決めた、猫呼さまと雪乃フルエレ女王と同盟を裏切った上はもはやこの御方に尽くすしか道は無い。靴が擦り切れ皆が倒れても必ずココナ様が幼き日に眺めた白鳥の乱舞をご覧に入れる」


 クレウの決意表明を聞き、部下達ははて迷惑な話だと内心思って渋い顔をした。そしてそのまま一行は西に西にひたすらココナツヒメが気まぐれで指を差す方に歩いて行く。




 ザッザ、ザッザとひたすら一行は山中を真っすぐ西に、深い木々を分け入って歩いて行く。勾配が急であったりするとクレウは愛するココナツヒメを輿から降ろし、かいがいしく背中におぶって坂を上った。当然その後ろから輿だけを数人掛かりで持ち上げる事になる。なんと言ってもココナの気まぐれにしか思えない指を差す方に歩くだけなのだから、クレウ以外の人々の気は終始重かった。


 ザザザーーッ!!

 突然木々が揺れ何者かが素早く近寄って来る。


「警戒--ッ!!」


 先遣隊の兵士が大きな声で叫ぶ。

 ドーンドーン!

 いきなり魔銃が発射される。


「ココナさまお手を」

「あ?」


 クレウは輿に座るココナの白い指を握った。そしてフルエレとアルベルトの恋路を監視した以来出番の無かった透明化魔法を唱えた。一瞬でクレウココナ両人のみならず、輿を支える従者達までもがフッと消え失せた。これでモンスターから気配を消し、自分達だけでも助かろうという事であった。

 バーンバーーン!

 キィーーーン!


「出たっサーベルタイガーだっ!」


 同盟の北部列国や七葉後川流域ではとっくに絶滅し、兎幸の氷の博物館行きとなっている様な大型モンスターが複数現れた。クレウの視線の先の森の中では兵士達が必死に戦っている。


「あーっ?」

「しっお静かに。気配を消して下さい……」


 クレウはココナツヒメの顔を胸に抱き締めた。


「ええい魔導士も攻撃せよっ!」


 ドンドシューーン!!

 魔法球体が飛んでいく。


「ギャウンッ!?」


 複数現れた大型の猫型モンスター達が、なんとか必死に戦う護衛兵や魔導士達に狩られて行く。やがて最後の一匹の頭上に剣が振り下ろされて戦闘は終わった。幸い戦闘員だけでは無く、非戦闘員の召使いや従者達にも死者は出なかった。ようやくクレウは透明化を解いた。


「よし、一旦此処で歩みを止めよう」

「あーっ?」


 ココナは不思議そうにクレウの顔を眺めた。こうした戦闘を何度も経て、夜には野営し朝にはまた歩き出すという事を一行はひたすら続けた。




 ー遂に出発して三日が経った。

 一行の中には明らかに疲れの色が見え始め、一体従者の誰が一人だけ元気でまだまだ意志が固いクレウに意見するかという話が、ひそひそと行われる様になっていた。元々貧相で人望の無いクレウ一行の士気は非常に低くなっていた。そんな時であった。


「クレウ様、もともと山人の斥候からこの先に妙な気配があると報告が」

「ん? 妙とは何だ」


 クレウも内心、白鳥が見つからない事に焦っていたが、眉間にシワを寄せて聞いた。


「はぁ、良くは分からないのですが、ランダムに切れた木々の根があると……」

「木こりが切った物ではないのか?」

「いえ、何故か乱雑に物凄い力でむしり取られた様な跡が散見すると」


 それは紅蓮と依世が最強の魔ローダー白鳥號にカモフラージュする為の木々を切った跡であった。依世の透明化魔法で完璧に偽装化された白鳥號であったが、念押しで採集した木々の切り跡の不自然さはバッチリ残ったままであった。


「何だまた大型モンスターか?」

(不気味だ引くか……)


「あーーーーーっ!! あーーーーーっっ!!」


 すると突然ココナが狂った様に叫び出した。


「何ですか?? どうされたのですか?? え、まだ先に進めと」

「はく……ちょう」

「何と、この先に群生地が!? 致し方ないモンスターに警戒しつつ先に進む!!」


 クレウは叫んだ。

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