ザ・イ・オサ新城移転④ 防衛構想
「……」
部屋に居る人々の目がスナコに向かった。フルエレを制御出来るのは砂緒とセレネだけであった。
「フルエレ、女王としての権限を行使するなら、義務も果たして下さい。落ち込んでるだけではダメですよ、移転を急いだ理由を聞きださないと」
「え?」
「え??」
スナコから砂緒の声がしてナリがぎょっとして二度見して目が合った。
「申し訳ありません」
賢いナリはすぐさま状況を理解して謝罪した。彼の中で砂緒は特殊な性癖を持つ変態という事になった。
「そうね、その通りだわ。レナードさんどうして急に完全移転する事にしたの?」
「確かフルエレ女王は女王選定会議以来だな此処は。実はあの後、外からの脅威に対抗する為、より同盟の防衛力をアップさせる為に早急に移転する事にしたんだ」
レナードも態度を改めた。
「外からの脅威って何??」
「二つある。一つは域外の帝国ともう一つは東の地の神聖連邦帝国だ」
「ちょっと待ってよ、域外の帝国にはライス氏が使節を送っているはずだし、神聖連邦帝国が攻めてくるなんてあり得ないわ」
フルエレはデスク机にお尻を乗せ座り眉間にシワを寄せた。
「アメリカ人ですか?」
「無視して」
「ああ。確かに域外の帝国ハイアには女王就任の使節を送ったばかりだし、そっちは割と大丈夫だと思う。わざわざ海を越えてまで攻めてくる可能性は低い」
「じゃあ神聖連邦帝国が? 姫乃さんは良い人って噂だけど……」
「だがしかし、旧北部列国の国々に帝国からしきりに調略が掛けられてるって報告がある。それは事実だと思っている」
調略が掛けられているも何も、新ニナルティナ公の有未レナード自身が帝国の重臣、貴城乃シューネから直々に調略を掛けられたのだから報告も何も無かった。さらに両隣のリュフミュランとユティトレッドにも内応の誘いがあり、その上ラ・マッロカンプには偶然居付いた瑠璃ィキャナリーの屈強な部下達が、洗濯や掃除裁縫等を手伝いメイド達の間に溶け込んで生活していた。
「そんな……」
「それで、その事と移転とにどんな関係があるのです?」
フルエレの代わりにスナコが聞いた。
「お前さん地声で話したら不気味だな。でだ、帝国が北部列国に調略を仕掛けている理由はただ一つ、もし仮に侵攻があるとすれば東の地最西の都市アナから海峡を渡り、同盟の北部から侵攻する手筈だろうと睨んでいる。その時に新ニナルティナ港湾都市にある仮宮殿が本営では脆弱過ぎるんだよ、分かるだろ」
「それで奥まった地であるザ・イ・オサ新城に移転した訳ですか。しかしそれならそういう時に打って付けのタカラ山新城はどうしたのですか」
砂緒はセレネお気に入りの場所を思い浮かべた。
「敵にそこまで踏み込まれたらもう最終段階だぜ。まずは海岸線で敵を歯止めする事を考えねば。その場合はやはり最適なのは此処なんだよ。セレネ王女も承認済みだ」
フルエレが反応した。
(セレネの奴私に秘密で、とっちめてやるわ!)
「じゃあ今の仮宮殿はどうなっちゃうの??」
「あそこは為嘉警護城として堀を深くして最前線の砦として再利用する。それに伴い元々旧ニナルティナ王の庭園だった仮宮殿は堅固な城に建て替えるがな。改めて聞くがよろしいかな雪乃フルエレ女王陛下」
有未レナードは立ち上がって聞き直した。
(アルベルトさんとの思い出の場所が……)
フルエレは言葉に詰まった。
「フルエレ?」
「いいわ、許可します。そんな機会は無いとは思うけど、万全を期す為に建て替えて頂戴」
レナードは頭を下げた。
「わかった、許可が頂けて良かったぜ。ありがとう」
「ちょっと、さっき魔法障壁みたいな物を破ってしまったのですが」
「そうそう」
二人して冷や汗を掻く。
「ああアレはヴァッサーシュロスと言って、地上と上空の敵を水魔法の障壁で阻む物だ。蛇輪とは言えあんな簡単に破られちゃ駄目だな、テストしなおさにゃ」
台詞が無かった衣図ライグが出てくる。
「まずは為嘉警護城で敵を阻み、そこで突破されればヴァッサーシュロス障壁で妨害している間に、本営のザ・イ・オサ新城から出撃して猛攻撃するっていう鉄壁の防御プランだぜ、すげーだろう?」
衣図ライグは我が事の様に胸を張った。
地図 域外の帝国ハイア
地図 雪乃フルエレの同盟主要部
(※ユティトレッド西隣にラ・マッロカンプがあります)




