ザ・イ・オサ新城移転③
例の女子職員の前でこそ涼しい顔をしていた雪乃フルエレ女王であったが、魔輪に跨った瞬間に表情が変わった。
「フルエレ?」
「ちょっと蛇輪のガレージまで飛ばすわよ!!」
スナコは荒い運転を予想し、サイドカーにしがみついた。
ー蛇輪駐機場。
「スナコ走って!」
「はいはい」
えらい勢いで蛇輪に飛び乗ったフルエレは勢いのまま水上倉庫から蛇輪を発進させ、すぐさま方向転換して南下した。やがて山の頂上にある城にたどり着いた。
「あれ、此処ってどこだっけ?」
「此処は多分タカラ山新城だと」
フルエレはそのまま一直線に南下して行き過ぎたのだった。
「えっとザ・イ・オサ新城ってどう行くんだっけ!?」
「ミミィのユッマランドの北、我々の同盟の砂時計状の平地の丁度くびれの上辺りですよ」
「分かりやすいわ! 行くわよーー」
(ミミィ、リナさん……)
亡くなった二人を偲びつつ、そのままフルエレはザ・イ・オサ新城にぶっ飛んだ。
ーザ・イ・オサ新城上空。
ヒュイーーン
蛇輪は着々と城郭が完成しつつある、ザ・イ・オサ新城上空直前にホバリングした。
「うはっ知らない内に割と大きなお城が出来てる……」
「大きいですねぇ」
バシィイッ!!
等と呑気に会話していると、蛇輪が何かにぶち当たって操縦席内に衝撃が走る。
「きゃあ!?」
「何だこれは!! 操縦変わります!」
フルエレから砂緒に操縦を変えると、すぐさま見えないバリアー的な障壁をするどい爪で強引に無理やり切り裂いた。空の上で巨大なカーテンを割く様に光の幕が切れてふわっと消え去る。
『ちょっとー何やってるんですかーーっ!』
『貴方ダレ??』
抗議の通信に慌ててフルエレが応答する。
『ナリですよ、ユッマランドのメイド、リナの弟のナリです! とにかく蛇輪は着地して下さい』
仕方なしにフルエレとスナコは言われるまま着地した。
着地すると上空に居た時の怒気と違って、少年執事のナリは丁寧に深々と頭を下げ挨拶をした。
「先程はご無礼を致しました。女王陛下御自身とは気付かず、どうぞお許し下さい」
『今の障壁は一体何ですか?』
スナコはボードを見せた。
「え、誰ですかこの方は……」
「スナコちゃんよ、砂緒の代理なのよ」
「はぁ……先程の障壁はヴァッサーシュロスという魔法の障壁です。ザ・イ・オサ新城を守る為に設置させていた物ですよ!!」
『ありゃりゃ、セレネと海と山と国に行った時に似たようなミスをしてしまいました。これは面目ない……』
スナコちゃんは頭を掻いた。
「そんな事どーでも良いのよっ早くレナードさんを出して!!」
フルエレはえらい形相でナリのネクタイをぎゅっと掴んだ。
「い、いえ私めには恐れながらその様な権限は……」
『フルエレ止めてあげて、顔怖いです』
と、そんな状態の時に辺りに通る大きな声が響いた。
「よぉフルエレ嬢ちゃんじゃねえか! 久しぶりだなオイ」
遠くからでも分かる大男、衣図ライグであった。
「あっ依図さん、貴方でも良いわ早く有未レナードさんの所に私を連れてって!!」
ナリのネクタイを離し、今度は依図に食って掛かる。
「お、おいえらい勢いだな、まあお前さんは可愛いから何でも良いぜガハハ」
「舐めてないで、早くっ!」
「はいはい。んじゃ城に案内するわ! 此処は土地勘のある俺たちが土木の手配してるんだぜ」
「早くして!」
「はいはい」
『フルエレ、少しは旧友と会話して下さい……』
呆れたスナコであったが、フルエレの勢いは凄まじくそのまま城の中に案内されて行った。
ー有未レナードの執務室。
バンッ!
部屋に案内されるなり、フルエレはレナードの机を思い切り叩いた。
「いった~~~」
『アホですか?』
フルエレは叩いた手をフーフーする。
「何やってんだよ嬢ちゃん」
「何やってんだよ嬢ちゃんじゃないわよ!! 何勝手に女王仮宮殿を移転させたのよっ!! 何で私に一言断りを入れないの? 何で私が命令した事になってんのよ」
まくし立てられてもレナードは腕を組んだまま、黙ったままだ。
「おい何とか言ってやれよ親友のレナード」
「親友じゃねーよ。でも嬢ちゃん、移転自体はだいぶ前からアナウンスしていた事だし、第一アルベルトの奴がああなってから仮宮殿にあまり近寄らなくなったのは嬢ちゃんの方じゃねーかよ」
レナードの言葉にフルエレは急激にしょんぼりし始めた。その場にいる全員が言ってはいけない禁句を言いやがってと目を細めた。




