久々に女王仮宮殿へ
ー新ニナルティナ喫茶猫呼本店ビル。
依世が行方不明となってから一週間が経っていた。具体的に言えばまおう城の地下牢で、紅蓮と依世は一週間近く投獄されたままとなっている。そんなある日の朝。
「ひゃーーーっ遅刻遅刻!! 砂緒早くしなさいっ!」
「わたしは結構早く起きていますが……」
大口に砂糖が大量に使用された高級食パンを咥えて、雪乃フルエレ女王が走って行く。砂緒が女装するスナコと一緒にVIP専用直通エレベーターに乗ると、そのまま一階のホールに着いた。
チーン!
ガラガラガラ
クラシックなアコーディオン式のドアを開け、他には目もくれず一目散にサイドカー魔輪を置く、駐輪場にダッシュしようとする。
バシーン!
彼女の目から星が出た。
「きゃあっ!?」
「痛いっ」
慌てて走り出したフルエレは何者かとぶつかった。
「七華大丈夫ですか?」
フルエレに正面衝突したのは七華王女であった。
「ありがとう砂緒さま、スナコちゃんになってもやさしいですのね。そんな事よりフルエレ! 今日こそ逃がしませんわよ!」
砂緒の手で起き上がるなり、えらい剣幕でフルエレに食って掛かる。
「どうしたのよ七華、朝っぱらから何怒り狂ってるのよ」
迷惑な顔で七華を見るフルエレの心は既に学校に行っている。
「どうしたのよ七華、じゃないですわっ! 貴方妹さんの依世さんが行方不明になって一週間ですわ、心配じゃありませんのっ!?」
七華はフルエレの中ぐらいの大きさの胸の膨らみにトスッと指を刺した。
「……全然心配……してないわ?」
「不正解よ! 何、人の顔色見てから答えているんですの? 正解は凄く心配しているわ、ですわかりました??」
「ですって砂緒」
困り果てたフルエレは砂緒にパスを渡した。
「ですってって言われましても。七華、フルエレの気持ちを代弁しますと、彼女は長期間家出中の親不孝者なので、今更依世にどうこう言える立場では無いのです。そこの所を理解してあげて下さい」
「そそそそそそそ」
フルエレは超高速で頷いた。
「そそそそそそそじゃ無いですわ! そんな事でどうしますの? 私がもし五華が行方になったら泣き叫んで探しますわ」
「ふーん」
ぽこっ
スナコがフルエレの頭を叩いた。最近は砂緒の方が常識派となっていた。
「少しは心配顔して下さい。フルエレは仮にも同盟の女王陛下なのです、冷たい人間と思われます」
「でも、依世は小さい時から空は飛べるわ攻撃魔法は出すわで、あの子は絶対大丈夫なのよ。私の方を心配して欲しいわ!?」
(暗殺してたくらいなのに……)
雪乃フルエレ女王、【海と山とに挟まれた小さき王国】の【夜宵姫】は魔力はあるが魔法が使えなくなり、万能タイプの魔導士の妹、依世に嫉妬とも羨望の眼差しとも複雑な感情を抱いていた。もちろん占いの結果も含んでの事である……
「パンを咥えて走り出す、貴方の何を心配しろと言うの?? それよか最近猫の子さんと兎幸ちゃん、それにイェラの奴の顔を見ませんけど?」
「それは……」
「七華、イェラと猫呼と兎幸は学園の部室館で寝起きしてます」
スナコが答えた。今この場には七華しかいないので当然地声である。
「はーっ結局こうなるとは思ってましたわ! まぁ本店の方はわたくし達姉妹が乗っ取りましたのでご安心を」
「うん、凄く安心してるの、七華なら大丈夫だって」
「呆れましたわ。じゃあ……あ、有未レナードさんが至急女王宮殿に来るようにですって。ちゃんと伝えましたので、では。あ、砂緒さままた是非お店にいらして、サービスしますわ!」
「うん、絶対に行きます。私は四六時中七華の事ばかりをを考えています!!」
「嘘でも嬉しいですわ!!」
七華はせいせいした顔で地下への階段を降りていった。
二人はサイドカー魔輪に乗り込み学園に急いだが、確かに二人がセレネの学園に転入して以降、一か月以上が経ちフルエレ女王はその間一回も仮宮殿に出ていなかった。
「フルエレ、七華の言う通りさすがに宮殿に行かなさ過ぎでは? もうそろそろ行きませんか」
「わかってるわよっ! 私もそろそろ行かなきゃなって思ってた所よっ」
「フルエレ、最近身勝手さに拍車が掛かってきましたね」
「そーお?」
そして放課後、フルエレとスナコは喫茶猫呼学園支店の営業を猫呼に任せ、二人してニナルティナの仮宮殿にUターンして直行した。ちなみにセレネは何故かお茶を濁して居残ったのだった。
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