紅蓮依世投獄③ 救援の手
「な、何よぉやる気!?」
依世は両手を構えファイティングポーズを取った。
「くくくくく、強がるな! お前は今魔力を使えずただの小娘。僕が本気を出せばいとも簡単にねじ伏せて服を脱がせ、全裸にする事も可能ッ!!」
「や、やれる物ならやってみなさいよっ私の百裂パンチをお見舞いするわ!!」
依世はシャドウでシュシュッとパンチを繰り出した。
「やめろーーーっ!! 依世に手を出したら許さんぞっ!!」
突然紅蓮が叫んでサッワが度びっくりする。その声はまるで少年の様であった。
(紅蓮……)
半分彼を諦めていた依世だが、少しホッとして隣の牢の壁を見た。
「およ、今なんか男っぽい声だったぞ。確かアンタはスピネルさんにあごクイされてた娘さん……まさかまおう様のお見立て通り男なのか!?」
今度は紅蓮の鉄格子に向かうサッワ。
「ヒドイッ! 貴方まで私の事を男だと? この私が男に見えますか!?」
紅蓮は潤んだ瞳で訴えた。薄暗い地下牢の中で見ると女にしか見えなかった……
「いやー僕には女に見えるけど」
素直なサッワであった。
「嬉しい……でも妹だけには手を出さないで下さい! その代わりもし無事に牢から出れたなら……泣きながら貴方に抱かれます!!」
紅蓮は胸の前で両手を交差し、少し恥ずかしそうに横を向いた。
(紅蓮の演技がだんだん過剰になっている!?)
依世は目を細めた。実際紅蓮は女装演技にどんどんのめり込んでいた。
(こ、このお姉さんが僕のモノに!? ごくり)
「泣くとか言わないでよ。僕は女の子に優しくて有名なんだ。僕にはカヤちゃんという立派なフィアンセが居るけど、第二婦人として迎え入れてあげるよ、だから泣くとか言わないで」
しかし既に彼は興奮していた。
「嬉しい……ベッドでも優しくしてくれますか?」
「ももももちろんだよハァハァ 見た目清楚系なのに積極的なんだ?」
「そうなの」
(アホなのねこの子……)
依世は隣で繰り広げられる茶番に呆れ果てた。サッワは依世がフルエレの妹だと知らない。
「そういう訳だ、お姉さんは僕が世話する事になる。だから義妹として仲良くしようゼ、ミカちゃん」
「ミカちゃん言うな! だったら早く牢から出してよ」
「なるべく早くなんとかするよ、まおう様は放漫でユルユルだから一週間もすれば出してくれるよ!」
「本当?」
紅蓮が聞くが、依世は疑いの目で見ていた。
「そうだ、お前達に僕の笛を聴かせてしんぜよう。心して聞け」
「えー要らない」
「まあまあ聞いてあげましょ」
地下牢の石畳の床にあぐらをかいて座ると、サッワは目を閉じ機嫌良く笛を吹き始めた。そのまま独演会は長時間続き、気付くと二人は寝ていた。
ー数時間後。
「依世さま、紅蓮殿お目覚めを」
何かに突かれて依世がゆっくり目を覚ます。
「う、うーん誰? ハッサッワの奴は??」
彼女は敵であるサッワの前で寝てしまい、悪戯されていないかドキッとする。
「大丈夫で御座いますよ。奴はアハハこいつら寝てらぁ等と言いつつ此処を去りました。ご心配には及びません」
「貴方はライラさん!?」
ようやく頭がハッキリした依世は目の前の鉄格子にライラが居る事に気付いた。
「魔法レーダー技術供与や軍事交流の為に来ておりましたが……まさか依世様とお会いするとは」
「サッワとは?」
「どうやらまおう抱悶殿は私と三魔将を会わせない様にスケジュールを組んでいる模様」
「そうなの……」
ライラの言う通り、当然彼の方も会えば顔を覚えているが、彼女はサッワとも挨拶もしていない。
「ではこれより鍵を破壊します、お離れを」
言うとライラは鎌を展開して魔法力を込め始める。暗い地下牢で刃の部分が青白く光った。
「ちょっと待って、紅蓮も一緒に行くのよね?」
見えないが鉄格子に指を掛けて問うた。
「ううん、僕は此処にいるよ」
「ちょっと私だけ逃げたら貴方今度こそ何されるか!?」
「それでも良い、僕は母上の様な抱悶ちゃんにもう一度会いたいんだ! だから依世は先に帰って、今まで君と旅が出来て楽しかった」
紅蓮の別れの様な言葉に依世は激しく落胆する。
(何よソレ!?)
「依世様、お諦めを。紅蓮殿は抱悶にバブみを感じておられるご様子。もはや腑抜けです、先を急ぎましょう!」
ライラは鎌を振りかぶった。




