紅蓮依世投獄① サッワ帰城
ガシャーーン!!
泣き叫ぶカヤの前で紅蓮と依世は二つの牢に投獄され、冷たく重い鉄格子の扉が閉められた。
「うっえっえっえぐっ、お姉さんごめん、全部私のせいだよ、ううーー」
「ううん、違うのよ全部紅蓮が悪いの、だからカヤちゃんは気にしないで」
「そうだよ、100%私が悪いんだ、むしろ気にしていないよ」
「気にしろよバーカ!」
「お、お姉ちゃん喧嘩しないで!? うわーーーん」
カリカリする依世にカヤはさらに泣き叫ぶ。
「あわわわ、もう何もかも紅蓮のせいだバカーーわーーーっ思ってたんと違う!!」
「依世までパニくってどうするの?」
「ささっ姫様、ここには長居無用です、参りましょう」
「や、やーーー!!」
小さいカヤは衛兵や侍女達に腕を引かれて泣き叫びながら出て行った。
「ううっ行ってしまった……」
「ご安心を俺がおりますぜ」
「誰!?」
突然声がして驚くが、普通牢には牢番が居た。
「安心してくれ、俺はお前さん達が男だなんて信じちゃいねえ。まおう様は可愛いが時々変な事を言いなさる。あんた達の疑いもすぐに晴れるさ。それまでは俺に何でも言ってくれ、必要な物なら何でも用意するぜ」
姉フルエレと同じく、牢番の当たりは良い方であった。まあ投獄される時点で運が良いとは言えないが。
「あ、ありがとう……嬉しいやら悲しいやら」
「へへへ、あんた達が解放された折にはどっちかを嫁にしたいと思っているんだっ!」
牢番は鼻の下をこすり、赤面しながら言った。
「下心を隠さないタイプね!?」
「じゃあ姉の私が犠牲になって嫁ぐわ……」
「犠牲とか言わねーで下さいよヘヘ」
「お願い、私達着替えたりお手洗いに行ったりするから、しばらく此処を離れて欲しいの、未来の義兄さん……」
依世は切ない顔をして頼んだ。
「ああいいさ。だが拘束輪は外されたとは言え、首に魔力封じのリングを付けた事を忘れ無いで、変な気は起こさないでくれよ」
気の良い牢番が言った通りご丁寧に全員首輪が付けられている。牢番は紅蓮を本当に女性だと信じているのか、上機嫌で手を振ると笑顔で離れてくれた。
「……どうすんのよ、アホーーッ! 抱悶が言った通り紅蓮は本当のバカだよっ最後の頼みの綱のフェレットまで封じられたじゃない!? どーーすんのよっ!!」
依世は泣き叫びながら鉄格子をガッタンガッタン揺らした。
「もう落ち着きなさいよ……私ならいつでも此処から出れるから安心して」
「はぁ? 私達魔力封じられてるのよ」
「はいコレ、見て!」
ボウッ!
鉄格子の間から出した紅蓮の手先で、糸くずか何かが燃えて灰になって消えた。
「え何で!? 紅蓮も首輪付いているのに」
「僕の豪炎は魔力依拠じゃなくてスキルだから魔封じは関係ない。だからいつでも鉄格子溶かして脱獄出来るよ」
「スキル……。何でもいいわ、ごめん誤解して、じゃあ早速出ましょう!」
「まだ出ないよ」
「ヘッなんで!?」
依世は出鼻を挫かれた。
「抱悶ちゃんに叱られて思ったんだ、抱悶ちゃんって母上みたいだって……彼女が居る此処に、もう少し居たい、また会話がしたい……例えそれが拷問だとしても!!」
紅蓮のキッパリとした口調に依世は絶望した。彼は幼き日に母と死別しており実際には、はっきりとした記憶は無かった。
(紅蓮ヤベーー!? こんなヤツだったの……)
「もう何なのよ、もう嫌ーーっ!? お姉さま助けて!!」
依世は頭を抱えて絶叫した。
ーココナツヒメ領、北都市トコナッツ
「此処がココナツヒメ様の故郷、どの様な少女だったのでしょうな?」
車椅子を押すクレウがしみじみと呟いた。
(どエロイ少女だったんだろうな)
(キツイ性格だったんだろうな)
しばらくして二人は顔を見合わせて笑い合った。
「本来なら僕も数日宿泊したかったのですが……三魔将の誰かが城に居ない事には」
「ええ、分かっています。近寄りすらしないスピネル殿と違って、貴殿には感謝しております。どうぞお城に帰りカヤさまをご安心させて下さい」
「すいません! 僕の言った事忘れないで下さい」
「はいはい」
形式上、もはや回復の見込みの無いココナが左遷された様な場面で、サッワは後ろ髪引かれる思いでこの地を後にした。
「ではまた!!」
「ではまたです、サッワ殿!!」




