敵国の姫君② 芯柱御建ての儀
街の広場らしき一角には多くの人だかりが出来ていて、それなりの警備兵も居た。だがいろいろな階層の人々がカポとやらを見に集まって来ていて、華麗な衣装の女装紅蓮と依世は誰にもマークされなかった。
「カポって何だろうね? 僕は格闘技だと思うよ」
「でも格闘技をする様な立地にも見えないし」
「早くカポみたいカポ~~」
「お嬢様……」
クマミミ少女も目を輝かせて待っていると、神秘的な衣装を身に纏った司会らしきお姉さんが出て来た。
「皆様お待たせ致しました。これよりカポエーラの儀を執り行いたいと思います」
等とお姉さんが言うと、見るからに極悪で屈強そうな男が鎖に繋がれ二人出て来た。
「カポエーラとは?」
「シッ」
「強きおのこは時によーわからん理由で猛き血潮をたぎらせ戦わねばならぬ時があるのです……さぁ、今こそ命を懸けカポエーラで闘いなさいっ!」
その言葉を合図に屈強な男二人は天幕の柱か何かと思い込んでいた木の柱に登り始めた。そしてやがて二人は一本の丸太に向かい合う様に跨った。その姿を見て観衆の熱狂は最高潮に達した。
「カポエーラ!!」
「カポエーーラ!」
「え、これ何? 格闘技みたいな?」
「うーん、想像してたんと違う」
「自分でよーわからん理由って言うてるし」
「でも猛きおのこは戦わねばならぬ時があるってのは分かるよ、美柑を守る為とかさ」
普通にスルーされた。
「そなたらカポも知らないの? カポとは丸太に跨った死刑囚が生死問わず相手を木の棒で殴り倒して、勝った方が減刑されるゲームだよっ! 面白そうでしょ~」
クマミミ少女が教えてくれた。我々の世界のカポエイラとは全く違うスポーツの様だ……
「いい話なんだか悪い話なんだか」
「要はピコピコハンマーゲームの残酷版ねえ」
「例えが雑。でもお嬢ちゃん教えてくれてありがとうねウフ」
紅蓮はウインクした。
「お嬢ちゃんじゃないモン! わらわはカヤだモン!!」
「お嬢様気安くお名前を言ってはなりません」
直ぐに召使に注意される。
「ありがとうねカヤさん」
「紅蓮始まるよっ!」
わーーという歓声の中、死刑囚二人は丸太の上でルールも何も無い壮絶な叩き合いを始める。すぐに両者血みどろの状態となり気分の悪くなるご婦人もいた。
「キャハーーーッがんばれっ殴り倒せカポエーラ!!」
「お嬢様お声が大きいです」
「うるちゃい!」
紅蓮は目を細めて様子を見る。
「うーん、まおう軍案外のどかで平和で良い所って思っていたのにショックだよ」
「やっぱりまおう軍はまおう軍よの~、でも犯罪者が一人減るなら良い事じゃない?」
「美柑、過激だね……」
「そお?」
グシャッ!!
「キャーーッ」
「カポエーーラ!」
見る間に男が相手の脳天を太い棒で叩きつけ、大量の血しぶきが上がった。ご婦人方の叫び声と興奮した観衆の声が交互に上がる。
ズシャッ
一人が丸太からずり落ち勝者が決まった。
「えーーもう終わり? つまんなーい」
クマミミ少女は頬を膨らませる。
「紅蓮もやりたいんじゃない?」
「いや遠慮しておくよ。僕がやれば相手を瞬殺してしまうだけだし」
「たいした自信ね! でも事実でしょうね」
「今度はあっち行くーー!」
移り気なクマミミ少女はまた走り出し、お付きの召使達が追い掛けて行った。
「僕たちも付いて行こう。どうも僕はこの競技は苦手だな」
「私もー」
二人もカポ開催地を後にした。
「おい、向こうで芯柱おったてやってるぞっ!! 芯柱おったて!」
「見に行こうぜキャハハハハ」
またもや悪ガキ達が指を差しつつ走って行った。
「芯柱おったてって、今度こそ完全にヒワイな行事でしょ……ねえ美柑?」
カッコつけな紅蓮にしては攻めた会話だった。
「へ? ごめん聞いて無かった。ちょっと意味が良く分からないわ」
依世は赤面でも仏頂面とも違う、微妙な表情で誤魔化す。彼女も姉雪乃フルエレと同様にこうした冗談が大の苦手であった。紅蓮は悪いなあと思いつつも、こんな依世がかわいいと思った。
「わーーー芯柱おったて見に行くーーっ」
先程のクマミミ少女も、またもや走って行った。
「あんな少女まで……さすがまおう軍だな」
「ごめんちょっと意味が良くわからないわ」
しかし二人は謎の行事を見に行く事にした……




