敵国の姫君①
「はいはいせっかちなお嬢ちゃんじゃな、まおう城を建てた【王永嶋フィロソフィー王】と行動を共にしていた三つ目の一派は遂にまおう軍から分派して、最初に建てた城こそが此処、【北まおう軍領】とも【南・海と山と国】とも呼ばれるこの地なのじゃ」
お婆さんは全て言い終わって満足気だ。
「つまり……私の【海と山とに挟まれた小さき王国】とまおう軍とは双子の存在なのね」
依世が複雑な顔をした。
「それだけじゃない、元をただせば【神聖連邦帝国】も【まおう軍】も【海と山と国】も全部一つの家系の出という事になるね、だからフルエレちゃんと姉上が全く同じ声と顔をしているのか……遠い過去の血が偶然巡って来たのだろうか」
「でも良かったじゃない、これで抱悶ちゃんと話し合う取っ掛かりが出来たじゃない」
「うん、考えようによってはもう争う必要が無い、お婆さんとても良い話を聞い……あれ?」
紅蓮がお婆さんにお礼を言おうとすると、既にその姿は無かった。
「いやっお婆さん消えた!? ちょっとフェレットお婆さん知らない?」
依世が無言のプレッシャーを掛けていたはずのフェレットに、お婆さんの気配が無いか尋ねた。
「すまん、話に興味が無いんで一瞬寝てたぜっ。けどあのバアサンの気配も臭いもしねえなあクンクン」
フェレットは巨大な鼻であちこち嗅いだが気配は忽然と消えていた。
「ちょっとこれを見てごらん、玉座の背景のレリーフ……王妃様の方、さっきの御婆さんに雰囲気が似てない!?」
紅蓮に言われて依世は目を凝らして見た。
「うーん、そう言われてみれば雰囲気とか髪型とかなんとなく……幽霊って言いたいの? 私そういうの信じないから!!」
「よし、じゃあキミは今晩この城の中の依世の部屋で寝よう!」
「えっこのお城で!?」
「だって全く作りは同じなんだろう? さっ案内して僕は隣で寝るよ!」
渋々依世は自分のお城の場合の自室に該当する部屋に入った。当然そこにも植物や朽ち果てた木々が散乱していた。しかし冒険者として野宿はお手の物だが……
「ゴメン、紅蓮もこの部屋で寝て!」
「はいはい」
こうして二人とフェレットは依世の自室っぽい部屋で寝る事になった。
「……で乱暴者に絡まれるでしょ、貴公子に助けられるでしょ」
「え、なにそれ?」
「行動リストよ」
「もう良いって! 寝るわよ」
依世は灯り魔法を消した。
ー次の日。
目覚めた二人は城を出ると早速まおう城目指して南下を始めた。しかしまおう城に潜入する方法は完全にノープランであり、改めてどうやってまおう抱悶と会談などするのか悩ましい状態となった。
「うーん、昨日お婆さんにいろんな事を教えてもらったのは良かったけど、これからどうするのよ??」
「踊り子という設定だから、踊りを売りにして潜入するしか」
「てアンタ踊りとか出来るの?」
「少しは……」
「じゃあこの往来のど真ん中で突然踊りなさいよ、それで注目浴びたら?」
「ムリだよ恥ずかしいよ無茶言うな」
「根性ナシー」
等と二人は会話を続けて歩いたが、まおう軍と言っても普通に繁栄している都市と全く変わらなかった。南に進むにつれ、まおう城周辺はさらに人並が多くなって行く。そのせいで二人が目立つ事は全く無かった。
「おい、カポやってんぞカポ!」
「見に行こうぜ! キャハハハ」
見るからに悪ガキという一団が笑いながら走って行く。
「カポとは何だろう?」
「あの表情、ヒワイな事かも」
「絶対違うわよ!!」
と、そこに小さい少女が召使を引き連れてすれ違う。
「私もカポみた~い! 絶対見たい!!」
「お嬢様ダメで御座います。カポは大変お残酷で御座いますから……」
「いやー私も行くの!!」
「あっ嬢様っ」
召使を無視し、クマミミを付けた可愛い少女は走って行った。召使達は慌てて追い掛ける。
「あんな少女も虜にするカポとやらを見に行こう!」
「そうね、子供も行くくらいだし安全だわ」
二人はクマミミ少女の一団を追い掛けた。
お読みいただいてありがとうございます。
この物語の主役はあくまで砂緒です。
このまま主役が紅蓮アルフォードに移る等という事は決して無いですので
しばし紅蓮視点が続きますが、何卒お読み頂けると有難いです。




