南 海と山と国へ②
「私、あそこに行ってみたい……小さい時から不思議と南側には遊びに行った事は無かった……どうなっているのか見てみたい」
海と山とに挟まれた小さき王国の王女である依世も、まおう軍地域とは直接的に交流する事は無かった。紅蓮は彼女の願いを叶えてやりたいと思った。
「うん、そうしよう! 白鳥號はあのお城の少し北の山の中に隠そう」
「うん! ありがとう」
紅蓮の操縦で白鳥號はゆっくりと降下し、飛行形体のまま森の中に身を潜めた。
「上からも見えないように僕が木々を集めて上に敷いて置くよ」
「結構用心深いのねっ」
等と言いながらも脚力でピョンピョン飛ぶ紅蓮に協力し、飛行魔法で彼女もカモフラ用の木々を集めて敷き詰めた。
「美柑の隠蔽魔法とこの木々で誰にも絶対に見つからないね!」
「まあね」
普通の人間だったら此処からさらにふもとに降りるだけで一苦労だが、紅蓮の走りと依世の飛行魔法では簡単に村に降りる事が出来た。
ーお城の北側、北まおう軍領の小さな村。
まおう軍という恐ろしい名前とは裏腹に、そこには全く普通の村人の生活の様子が展開されていた。
「うーん、まおう軍炎の国って言うから、僕はてっきり炎の柱があちこち立っててめちゃめちゃ熱いのかと思っていたよ」
「紅蓮もうオネエ止めたの? キャラが安定しないわねえ、でも私もあちこちに獄卒みたいのが立ってて村人が虐げられてるのかと……期待してたのと違うよ」
「え、どんなん期待してたの??」
二人は誰にも疑われる事無く普通に村の中を歩いた。ただ若い小奇麗な格好をした二人は好奇の目では見られていた。もちろん国境にはそれなりの警備兵達が居る物だから、それを突破している以上、許可された人々と思い込んでいるのかも知れない。最近出番の無いフェレットは、騒ぎを起こさない様に小さくなっておとなしくしている。
「それよりも……あそこに見えてるお城が……」
「うん?」
依世がお城のシルエットを見上げて言った。
「どうしても私の故郷の家の、海と山とに挟まれた小さき王国のお城に見えるの……」
「うーん、僕は行った事ないから分からないけど、似ているんだ?」
「似ているというか同じ」
「怪しまれない様に急いで行ってみよう!」
「うん」
二人はお城に急いだ。
城前に着いて二人は拍子抜けした。てっきり衛兵や軍隊が駐留しているだろうと思っていた巨大な城だが、特に守る様な人影は無くそれ処か城自体が廃城の様にツタが絡み木々が伸び放題となっていた。
「これは……無人?」
「廃城なのかな? 入って良いんだろうか」
等と二人が会話していると……
「此処は随分昔に廃城になった、南・海と山と国のお城だよ。あんた達見ない顔だねえ、観光客かい?」
気の良さそうなおばあさんに声を掛けられた。
「え、ええまあ実は」
「観光客なんです!」
「もしかして北の同盟領から?」
多少怪訝な顔をされる。
「そうなんです、同盟領から許可を得て観光に」
紅蓮は正直に言ってみた。まあ一部嘘ではあるが。
「若い娘二人で? でもまあ同盟とは抱悶さまが大同盟を結んだと言うし、北に攻め込めなんて勇ましい事を言ってたヒメも大怪我をしてリタイアしたらしいし、そうだねえ観光客も来るかも知れないねえ。良かったらおばあさんがこのお城を案内してあげようかい? 小さい頃は中で良く遊んだものだよ」
おばあさんは事情を知って安心したのか笑顔になった。
「え、いいんですか!?」
(若い娘二人だって?? ムフフ)
紅蓮は自分の女装に騙された第一号の気の良い御婆さんにご機嫌になった。
(ちょっと紅蓮! 気を付けて)
(分かってるよ、旅人をねぐらに案内して襲うのは、モンスターの基本でしょ!)
一応二人は冒険者として警戒は怠らなかった。
二人はお婆さんに案内されて、廃城の中をずんずんと進んだ。朽ち果てた城の中に夕方の光が差し込み神秘的な光景であった。
「此処の中庭で良く遊んだものだよフェフェ」
一人ぶつくさ言うお婆さんを他に依世はやはり故郷とそっくりな城内に戸惑っていた。




