南海と山と国へ①
「ちょっと外の風に当たって来る」
そう言い残して二人は失踪した。喫茶猫呼を乗っ取ろうと画策していた七華始め、もともと超S級冒険者として活動していた二人が消えても誰も心配する者は居なかった。それ処か店長としてもった方だなと考えるくらいであった。
ー新ニナルティナ山間部、魔ローダー白鳥號隠し場所。
若い二人は即日出発する事とした。
「久しぶりの冒険、わくわくするわね!」
紅蓮は女装のまま白鳥號に乗り込もうとする……
「もしかしてこれからずっとソレで通すつもり?」
「そうよ、それが何か?」
「いえ……それよか本当にまおう軍に白鳥號返しちゃうの?」
依世が操縦席に乗り込みつつ、巨大な顔を見上げながら聞いた。
「当たり前じゃない! 借りパクだめでしょ」
「でも待って、白鳥號ってお姉さまの蛇輪と同じくらいの強さなんでしょ?? そんなの返しちゃったらまおう軍が増長して同盟のバランスが崩れない? 抱悶ちゃんは何も言って来て無い訳でしょ?」
「まんが借りても何も言って来なかったら借りっぱなしの主義?」
何か今日の紅蓮はぽんぽんと言い返して来てむかついた。
「むーっ。お願いよお姉さまの為に……白鳥號は返さない方向で」
しかし依世は重要な事だと思い粘り強く紅蓮にお願いしてみた。
「分かったわ! 外ならぬ大切なパートナーの美柑の願いだもの、今の所は返さない。それで良い?」
「オネエ言葉なのが引っ掛かるけど、それ以外はありがとう紅蓮!」
二人は笑顔になった。
「でも困ったわ、魔法レーダーに掛かっても良いから白鳥號で、ある程度まおう城まで接近しようと思っていたけど」
紅蓮は操縦桿を握り、魔法システムを起動させたまま困り果てた。
「ちょっと待って私に考えがあるの、そこで居てて」
等と言いながら依世は開いたままのハッチの端っこに立った。そして何やらぶつぶつと魔法詠唱を始めた。その詠唱はかなり長く時間が掛かる物であったから、紅蓮は何だろうと待ち続けた。
「……白鳥號を悪意の敵から見えなくせよ! トランスパレント!」!
依世が両手を挙げて叫ぶが、紅蓮は何が起こったのか良く分からなかった。
「美柑、もういいの? 何をしたのさ」
「オネエ言葉忘れてるわよ。ダンジョン探索とかでヘイト持ってる敵から自身を隠す魔法を応用して、白鳥號を隠蔽してみたの。一応魔法レーダーにも視覚にも両方見えなくしてみた」
依世は事も無げに言った。紅蓮は本当かなと思い、ハッチから身を乗りだしてみると、白鳥號の機体は見事に景色と同化していた。
「うはっ凄い、ハッチと入口だけが空に浮いてるみたい、不思議な絵だね。天才だよ」
「うふふ、これで透明化魔法のプロにでも当たらない限り誰にも気付かれないわ!」
依世はウインクした。
ヒュィーーン!!
甲高い起動音とジェット機の様な独特の音を発し、飛行形体の白鳥號は浮き上がった。
「美柑の事を信用して無い訳じゃないよ、だけどココナツヒメ領には強力な魔法レーダーがあるらしいから、このまま北の海を迂回して、アリリァ海から北まおう領炎の国に接近してみようと思うんだ。いいかな?」
依世のカンシャクが気になる紅蓮は、またもやオネエ言葉を忘れ上目遣いに後ろに立つ依世に聞いた。
「はいはい、それくらい慎重な方がいいわ、大切な白鳥號だもの……」
「よし、今度こそ出発!」
こうして二人は一路炎の国、まおう軍領に向かった。
ーアリリァ海
「見て紅蓮、西側にも複雑な地形の中に村々があるよ……」
「あの中のどこかにエリゼ達が落ち延びた地があるかも知れないね」
メドースリガリァが滅亡した後、女王エリゼ玻璃音と生き残った少数の重臣と家臣達はアリリァ海西側の半島の奥地に逃げ延びた。しっかり生き残った彼らであるが、この後も紅蓮達と再会する事はもう無いだろう。
それからしばらく白鳥號は南に飛び続けた。
「北まおう軍領にも村々はあるけど普通だね」
「うん、普通だね……うっちょっと待って、あそこ見て! お城らしき物があるわ」
依世がお城らしき物を見つけた場所こそ、【南海と山と国】の地であった。




