紅蓮、姉上から賜った衣(ドレス)で……
「ごめんごめん、ちょっと美柑を混乱させてしまったね。つまりスナコより凄い女装をしてまおう軍の地に潜入して、まおう抱悶ちゃんに近づき話し合いをしたいと思っているんだ、つまり戦う意志は無いよ」
紅蓮は依世を落ち着かせる為にきりっとした意志の籠った瞳で語った。
「いや……ごめん、抱悶ちゃんと話し合いたいって所までは良いんだけど、何で女装で潜入が必要?」
「もーーっ」
紅蓮はぷくーっと膨れた。
「いやいや可愛くないって!」
依世は勢いよく突っ込んだ。
「考えても見てよ、白鳥號に乗っていきなりまおう城に乗り込んで話し合いが出来ると思う? そこは女装して踊り子として接近するから冷静に話し合い出来るんだよ」
「ごめん、また踊り子という新しいワードが出て来たんだけど……」
依世は目を細めた。
「ごめん言って無かった? 私が踊り子の姉で依世が占い師の妹なの、それで親の仇を探して流浪の旅をしてるの!」
「今どさくさ紛れに私言うてるし、言葉がオネエになって無い? もう始まってんの??」
どんどん依世の中での紅蓮のクールなイメージが崩壊して行く。
「ごめんごめん、設定を練っていたらつい入り込んでしまってハハハ」
「あのさ、ちゃぶ台返して悪いけど、砂緒は兎幸ちゃんのミラクルメイク術があるから上手く行ってるけど、紅蓮は女装無理だし……土台がその……男らしいし」
依世は少し赤面した。
「バカだなっ僕にはこれがあるじゃないか!」
紅蓮は素早くびらっとドレスを出した。
「これは姫乃さんの妄想上の妹に上げたかった女子力アップドレス!? アンタ常備してるの??」
「今から着替えるからさ、メイクは美柑がやってよ!!」
「えええ~~??」
戸惑う依世を無視し、紅蓮は適当な林の奥に入るとささっと着替えてしまった。その間自室に飛んだ彼女はメイク道具を持って来て、呆れながらもメイクを開始したのだった。
ー2時間後。
「ふぅ~~まーこんなもんじゃろ?」
「出来たのかしら?」
もちろん声は多少作っているが少年の声である。
「はい鏡」
紅蓮は武者震いしながら鏡を取った。
「!!! 嗚呼……これが僕……いや私の姿!?」
「まー我ながらやってみるとそこそこ女性に見え始めたわ」
依世はポリポリと頭を掻いて恥ずかしがった。
「じゃあ……このまま喫茶猫呼に戻りましょう」
「え!? マジデッ度胸あるわ」
依世が妙に感心する程、紅蓮の意志は固かった。
ー再び喫茶猫呼。
紅蓮と依世が去った此処は皆打ちひしがれ侘しさがみちみちしていた。そんな所にフラリと依世は戻って来た。皆の視線が彼女に集まる。
「ちょっと会って欲しい子がいるのよ……忌憚なく皆の意見を言って欲しい」
「藪から棒に何ですの?」
頬杖を付く七華が怪訝な顔をする。
コツコツコツ……
そんな事お構いなく紅蓮はやって来た。
「皆さん戻ってまいりました。紅蓮よ……」
一同の息が止まった。何故紅蓮は女装しているのか? 何がしたいのか、冗談なのか本気なのか意味が分からな過ぎて時が止まった。
「これは一体どういうつもりじゃろうか?」
美女にうるさい芹沢老人が最初に口を開く。
「私の女装が通用するかどうか、皆さんに審査して欲しいの! 見てっ」
等と言いながら紅蓮はクルリと一回転してドレスのスカートをヒラリとした。正直壊滅的にダメな女装なら一同爆笑して終わりなのだが、そこそこ完成度は高かった。それが皆を戸惑わせる結果となった。
「まぁ正直に言いますわ。わたくしは紅蓮を知ってますから違和感ありますけど、最初からコレで出会えばアリと言えばアリですわ」
「……綺麗かどうかで言って!」
「メンドクサイ女ですわね? まあまあ綺麗ですわ。シャルはどう?」
突然振られて戸惑う。
「ま、まあブスでは無いな」
彼はシャクなのでハッキリ言わないが、我々の世界で言えば若い頃のジェニファーコネリーやブルックシールズと言った目鼻立ちハッキリした美女という所ではあった。
「ワシは美女じゃと思う。チークダンスを踊りたいくらいじゃ」
「お断りするわ! でもこれで合格よね依世?」
「はいはい」
見切り発車だが、皆には極秘でまおう軍領に潜入する事が決まった。




