依世、遂に激怒する…… ‐
ーそんなある日の、同盟首都新ニナルティナ喫茶猫呼ビル地下一階本店。
この本店は雪乃フルエレ女王が妹依世に任せて以降、ずっと彼女が中心となり細腕で真面目に切り盛りして繁盛していた。今午後のひと時、お客さんの入りも一段落し、依世はカウンターに座り従業員達とひと時の休息を取っていた。
「ふぅ疲れたわ……でも最近なーんか」
依世がぽつりと呟いた。それを真面目な従業員のイライザが拾う。
「最近なんかどうしたんです?」
「最近なーんか、人が消えて行ってる気がするのよねえ……」
いつもの様に壁にもたれて話を聞いているシャルが、要らん事に気が付いて……とピクッと反応する。ライラは通常の同盟軍士官として出張していて今は居ない。
「え、神隠しですか?」
「神隠しじゃ無くて、このお店から人が居なくなってるのよ。夜宵お姉さまと砂ナントカとセレネはユティトレッド魔道学園に通学してるから当然なんだけど、何だか猫呼さんと兎幸ちゃんも居ないのよねえ。猫呼さんって此処の店主よね?」
「は、はぁ」
イライザは何だか雲行きが怪しいなあと席を離れたかった。
「それにお客さんとして時々来てたメランさんも消えたし、あと誰かが消えた様な……」
「そ、そうですかー?」
多少白々しいと思いながらもイライザは話を合わせた。
「あら、依世ちゃん休憩してたの? わたくしも呼んで下さればよろしいのに!」
そこに従業員と化していた七華とリコシェ五華が戻って来た。
「七華は誰か消えたと思わない?」
依世は多少目を細めて聞いた。
「それはどういう意味ですの? 今日イェラの奴が居ないって、それで皆で手分けして料理を作ったじゃないですの!」
そういう訳であった。
「何処に行ったのかしら?」
「わたくし、せいせいしてキッチンを掃除してましたらこんな物が」
七華は小さいメモを依世に渡した。
「むむっ、オ暇バイタダキモスですって!?」
「なんで魔報伝文みたいなカタコトなんでしょうね」
イライザが横から覗き込んだ。
「そんな事どうでもいいわ、とうとうイェラまで逃げよった!」
「あんな女遁走してくれて良かったですわ。五華、二人で調理頑張りましょうね」
「はい、お姉さま!」
小さいながらもリコシェ五華は頑張り屋さんであった。
「一体皆して何処に消えて行くのよ!?」
依世はカウンターに頬杖を付いてふてくされた。
「わしゃーーー見てしもうたんじゃ……」
「ギャーーッ!?」
その依世の真横に突然芹沢老人が表れてびっくりする。
「芹沢さん、何貴方スタッフ気取りで話に割り込んでますの?」
七華が呆れ果てる。
「いや、別に営業中じゃから入っても良いじゃろうと……紅蓮くんもおるし」
芹沢老人が言う様に、離れた座席には普段から入り浸る紅蓮アルフォードが普通に居た。
「アレは良いのよ、用心棒みたいな物だから。で、何を見たの?」
「いや聞かない方が……」
イライザが止めるが依世は芹沢老人に聞き返した。彼は深刻な顔になって続けた。
「ワシは行商人じゃった頃の癖で、ついふらふら~っと魔道学園に迷いこんじまう事があるんじゃ……」
「普通に犯罪者ですわよね?」
七華が五華を守りながら、いぶかしい顔をする。
「今は目をつぶるわ、続けて」
「ある日セレネちゃん可愛いな~等と彼女の部室館という所に迷い込んだ時じゃ、なんと部室館に喫茶猫呼魔道学園支店の看板が掛かっておったんじゃ……その上お客さんらしき生徒達も来ておった……可愛い女子高生ばかりじゃった」
芹沢老人は遠い目をしながら微笑み、頬を赤らめた。
「何ィーーーーーーーーッ!?」
突然依世はガタッと立ち上がって叫んだ。
「……依世さん?」
「わなわな、わなわなわな……お姉さま遂に本性を現したわね!? 私にこの店を押し付けて自分は支店を開業したですって?? きっとお姉さまはご自分の喫茶店全国チェーン展開の野望の為に私を利用してるのよ! 酷い酷過ぎるわ……超S級冒険者としてブイブイ言わしてた私が、何でお姉さまの野望の為に犠牲になんなきゃならないのよっ!!」
バーーン!
依世は銀盆を床に叩きつけた。あまりの彼女の激怒っぷりに皆が引いた。




