スナコの休日 ‐
謎の不審魔ローダー・シャケ事件から数日後の休日、雪布留と名乗る雪乃フルエレ女王はもう早速討伐部部室館に業者を入れて家具や調度品の搬入、さらには軽いリフォームまで始めていた。
「そこ、綺麗に前の壁紙を剥がして新しい白い壁紙を貼ってね! 調度品はぶつけない様に気を付けて。カネに糸目は付けないわっじゃんじゃんやって!!」
雪布留は女子高生とは思えない雰囲気で次々と注文を出していく。それをセレネ達は呆れた目で見ていた。
「カネに糸目とか言っちゃダメ。あんた私の魔法のお財布もう封じられてるって覚えてる??」
「安心して、お金が無くなったらまた黄金糖衣竜の所に取りに行けばいいのよ。ミラとジーノが……」
ミラとジーノはコケた。
「あたいらが行くんスか?」
「お前らでは無理だ。あたしが色仕掛けで紅蓮にでも行かせよう」
腕を組んで白い目をしたセレネが無感情で言った。スナコはニコニコしている。
ポカッ
突然セレネがスナコの頭を殴った。
『痛い?』
「何か反応しろよ」
「セレネでもそんな冗談言うのね? そこっ慎重に運んでっ!」
キュキュッ
『雪布留、私と二人で最初に喫茶猫呼を開店した時、貴方はもっと小娘キャラだったはずです。自分で汗水流して荷物を運んだりしていましたが……』
「人は変わるの」
遠い目をして言う雪布留にどこまで冗談なのか不明なので誰も何も言えなかった。
『でも雪布留が鮭に首絞められてる時に、ぐるじいって言いながら出会った時みたいって言い出したのには笑いました。確かにその通り、雪布留は私の目に狂いの無い面白き子です。出会えて良かった』
スナコと雪布留は、にこっと笑いあった。
「わたしもよエヘヘ!」
そんな二人をセレネは面白くないとむすっとした目で見る。
「大至急まおう軍から技術供与を受けていた魔法レーダーの配備を急いでいる。次はあんな事は無い! そうだな、あたしは今日も来ている学長に報告でもして来るよ」
「あらま」
「あ、おやびん!」
「おやびんじゃない!」
セレネは皆に背中を向けた。
『ではまー私はひたすらインスタントコーヒーを煎れる事しか興味無い人間なので、ここいらでドロンしますか。帰りは駅魔車で帰りますんで』
「おいスナコどこへ行く?」
「あっミラジーノは此処で手伝って。スナコは気を付けるのよ!」
『はぁ~い』
今日は珍しくスナコ・雪布留・セレネは別行動となった。
ー数十分後、ユティトレッド魔道王国【薔薇城】の城下町【薔薇の街】中心部にスナコは出ていた。
「とりあえず公衆トイレに入ってー」
スナコは小声で言いながら周囲を警戒しつつ男性用個室に滑り込んだ。
パサ、パサッ
セエラア服を脱ぎスカートを脱ぎ、そして鞄の中に隠していたウエイター服に着替えた。
「よし、最終ミッションです。超強力メイク落としでーバシャバシャバシャ」
ほぼほぼ不審者の動きで手際よくスナコから砂緒に戻った。
「くくく、世紀の色男砂緒さまの復活ですよ」
砂緒はそのまま笑顔で純喫茶を探した。彼は口先でインスタントしか興味が無いとか口走りながら、最近少し本格的な珈琲に興味が出てきてしまったのだ。とても悪い傾向である。
「ふむネビュラ珈琲薔薇乃街支店か……ここで良いか」
突然純喫茶に入る勇気が失せた砂緒は適当な大型店に入った。
「ほほうぅ? 何やよーわからん機械でぽこぽこしたりするトコは見れないのか……」
砂緒は席に着くと注文を済まし、澄ました顔で背筋を伸ばし紳士のつもりで珈琲を待った。彼の喫茶店のイメージは貧弱であった。
ガランッ
しばらくすると新たな客が入って来る。大型店なのでそりゃあ次々に入って来るだろうが……
「ここってレアチーズケーキが美味しいんだよ、アルピオーネ一緒に食べようよ!」
「私はスイーツになぞ興味はないぞ」
「まあまあ良いからさー」
「お前は子供だな」
砂緒は凍り付いた。
(る、ルンブレッタやないか)
砂緒の座る席の前をルンブレッタが笑顔で通り過ぎて行った……
ユティトレッド魔道王国・地図




