落下と収束
ピピピ……
魔法モニター画面には、謎の不審機・シャケの足先がピックアップされ拡大され表示されている。そこに自機のル・ツー千鋼ノ天の指先が徐々に接近して行く。まさに遠い隕石の上で衛星のロボットアームで慎重に作業するが如くな心境で二人はモニターを観た。
「あともう少しだよっ!! はぁはぁ」
「兎幸がんばれっ! 頼むっ!!」
スナコの座席の後ろに立つ兎幸も必死に操縦桿を握って魔力を放出し続けている。
シュゴォオーーーーーーッ
「えっ?」
兎幸が声を上げた瞬間、目の前の鮭の足先が消えた。しかしそれは消えたのでは無くて、鮭は飛翔しながら全身の赤いスラスターを駆使して姿勢制御し、くるっと逆上がりに回転して気が付いた時にはキックのつま先がル・ツーの肩にヒットしていた。
バッシィイイイィーッ!!
「んがっ!?」
「きゃああああ!?」
ぐんぐんと上昇していたル・ツーは突如神の怒りに触れた天使の様に、一瞬で物凄い勢いで真っ逆さまに一直線に落下運動を始めた。
ギューーーーーーンッ
「くそっ兎幸、再上昇だっ!」
スナコが叫ぶが兎幸の返事が無く、思わず振り返る。
「兎幸?」
「はぁはぁ……ごめん、もう魔力が……らめ……」
彼女の顔は非常に焦燥しており、冷や汗でびっしょりと濡れていた。尋常では無い大量の魔力を一気に放出してオーバーヒート気味になっていたのだ。おまけに魔力タンクも尽きかかっているのだろう、言葉遣いが魔改造前のたどたどしい状態に戻っている。
「ごめん……兎幸の事全く考えていませんでした……私はなんて事を!」
スナコは急降下の最中ながらもなんとか身体をひねり、兎幸の小さな身体を抱き締めた。
「砂緒、落ちて……行くよ」
「大丈夫です、兎幸は私が守ります」
砂緒は彼女の身体をさらにさらにぎゅっと抱き締めた。
「兎幸、砂緒の事好き!」
「私もです」
なんだか知らないが、お互い今すぐ一緒に死ぬみたいな雰囲気になっていた。
(はぁはぁ……こんな時なのに、魔改造された兎幸の身体、柔らかくて暖かい)
他意は全く無いが、砂緒はさらにさらに兎幸の身体を抱き締めた。
ギューーーン
さらに海面に向けて落下して行くル・ツー。もし魔ローダーが海に激突すればどうなるのか? 二人には分からなかった。
「砂緒、痛いよぉ」
「あ、ごめん」
「怖い」
「大丈夫」
等と言い合い、目をぎゅっと閉じながら落下に備えていた直後であった。
ガッシ!
突然落下に急制動が掛かり、二人は天井の底に頭から落下する。
『砂緒大丈夫??』
『フルエレ??』
『はろ~~』
魔法モニターには、ル・ツーの足をガッシリと掴む銀色の蛇輪の姿が大映しになっている。セレネの警告を押し切り、後を追い掛けたフルエレであったが、丁度落下するル・ツーを見掛け、追跡を諦めて掴んで救助してくれたのであった。
蛇輪が二人を学園に連れ戻した時、既に日は暮れ掛け一般生徒達は帰された後であった。セレネは予定された緊急演習であったと強弁したが、そんな物を信じる生徒は少なかった。だが、表立って反論する者は無く、大人しくそれぞれ帰宅して行ったのであった。
バシャッ!
ボロボロのル・ツーからスナコが兎幸を抱えて出て来ると、早速ルンブレッタとセレネとミラジーノが走って来た。
「スナコ大丈夫か!?」
「おいスナコすげーじゃねーかっ!」
「いや、スナコさんか??」
「スナコちゃん大丈夫だったかい? 凄い心配したよ」
だがスナコはそれ所では無かった。
キュキュッ
『猫呼、兎幸に回復魔法を掛けて上げて! それと雪布留、兎幸に緊急魔力注入を!』
「わかったわっ!」
フルエレは飛んで来て兎幸の両手を握った。
パワァアアアアアア
途端に彼女も兎幸も不思議な光で輝き始める。みるみる内に苦しんでいた兎幸の顔色が良くなって行く。
「雪布留、ありがとう! 良くなったよっ」
「はやっ」
猫呼が回復魔法を掛ける間も無かった。
(凄いですわ雪布留さん、いえ雪乃フルエレ女王陛下……無限の魔力というのは本当ですのね)
その様子をユーキュリーネは遠巻きに眺めていた。




