不審機、挑発
『教官、誰も剣など持っておりませんが!』
切れたセレネに対し、ユーキュリーネは冷たく答えた。
『アッしまった……すぐにわが軍に通報だっ』
『その前に誰か剣を取りに行かせるべきかと』
『ごちゃごちゃうるさいわっ!』
不審機の前で怒り出すセレネを無視し、スナコが動いた。かと言って語るのは兎幸であるが……
『不審機に告げる、剣を捨て所属と搭乗者名を名乗りハッチを開けよ』
兎幸の可愛い声で必要な警告を発した。
『砂緒? 何なのこの魔呂、鮭の切り身??』
学園では雪布留と名乗る女王は、銀色の機体のあちこちに入る赤いラインがサーモンの様に見えた。
『鮭て。フルエレは下がってて下さい!』
スナコのル・ツーは秘匿通信で言いつつ、前に出る雪乃フルエレ女王の蛇輪を片腕で制した。
しかしその時であった、謎の銀色の不審機・鮭は映画のブルース・リーの様に掌をちょいちょいと動かして、周囲で慌てふためく魔ローダー達を挑発する様な仕草をした。
『このーーーっ! 剣さえあればっ!!』
『お控えを、セレネ教官の機体はXSである事をお忘れ無く!』
激高しそうになるセレネを、VT25スパーダに乗ったリュディア・セリカが慌てて制止した。
『セレネ、私の蛇輪に乗って!』
『いやフルエレさん、今ハッチを開けるのは危険です。貴方はとにかく下がって!』
その時もう一人、もともと機嫌が悪く激昂した生徒が動いた。生徒会長のユーキュリーネである。
『XSの一般生徒達はもっと下がりなさい。ルシネーア、バックアップなさい! こんな鈍重そうな機体、ユーキュリネイドの神速でコカして差しあげますわ!』
『はいっ!』
ルシネーアのゴレムーⅡが返事した直後に、魔呂スキル神速でユーキュリネイドは消えた。先程と同じ様に鮭の周囲を今度はジグサグに高速移動を開始した。
『こらっ勝手な事を!』
大型機体・鮭は左右を振り向き、突如目の前で消えたユーキュリネイドを探している様に見えた。
『セレネ教官、今です! せめてスパーダにお乗りを!』
うろたえるかに見える鮭を横目に、スパーダのリュディアがハッチを開けた。
バシャッ
「こらっ危険だぞっ!」
叫びながらもセレネは即座に瞬間的にXSを捨て、スパーダに乗り移る。乗ったが途端にハッチは閉まった。
「申し訳ありません」
「いや助かる!」
セレネはリュディアと席を乗り換えた。
『ふふっどうやらわたくしの動きが全く見えてないご様子ね、足を蹴って差し上げますわっ!』
ジグザグに動きながらも、背中に回り込んだユーキュリネイドが膝カックンでもさせる様に、足裏を蹴りに掛かった。
ガシッ!!
『うぐっ!?』
だが蹴りかかった生徒会長の機体を、突然振り返った鮭はウナギでも掴む様に余裕でわしっと首根っこを掴んで捕まえた。
『なに!?』
『うそっ』
『生徒会長!! 魔ローダースキル、剛力!!』
ルシネーアは心酔する生徒会長の危機に自然に体が動き飛び掛かっていた。子供のわんぱく相撲の様に片足に掴み掛かる。
ガシャンッ!!
が、そんな事はお構いなしに首根っこを掴んだユーキュリネイドを軽々と持ち上げ、そのままブンッと投げつけて地面に叩き付けた。
『がーーーーっ!? うぐっ』
叩きつけられた衝撃でハッチが開き、飛び出たユーキュリーネがごろごろと転がって人体も地面に叩き付けられる。
『!?』
しかしその直後、叩き付けた方の大型機体・鮭が中川○礼○の主婦コントの様に、両手を頬にあててウヒャッみたいなポーズをした……
『今のポーズは何?』
『戸惑ってる様な?』
『自分でやっておいて舐めている……ふざけんなっ!』
『会長ーーーーっ!! おりゃーーーーー!!』
ルシネーアは地面に叩きつけられたユーキュリーネを涙目に見つつ、必死に片足を持ち上げ様とするが……
ウィーーーン、バシャッ!!
しかし容赦無く首根っこを掴まれると、またぶううんと投げつけられてやはり地面に叩きつけられた。
『ちょっと二人に回復魔法しなきゃっ!』
回復くらいしか出来ない猫呼が叫んだ。




