謎の侵入魔ローダー…… ‐
『ぴーーーっぴーーーーーっ!! 胴に有効打、勝者セレネ教官!』
「あうっ兎幸?」
セレネのXS25が回転しながらユーキュリネイドの胴に木剣を叩き付けた直後、ル・ツーの兎幸が恐ろしい反射神経で即座に判定を下した。
もはや判定が覆らない様に、有無を言わさず終結させる為だ。
兎幸も飄々と見えて、審判と言いながら実は完全にセレネの肩を持っていた。
シィーーン……
ユーキュリーネを応援していた一般生徒達は沈痛な面持ちで静まり返った。
しかし内心セレネ教官が勝つだろうなとも思っていて、誰も抗議などはするつもりは無かった。
(くっ欲を出して挑発に乗るでなかったですわっ、ちっ見てらっしゃい!)
『ふぅ、わたくしの負けの様ですわね。さすが王国いや同盟一の剣士セレネ王女殿下、ますます同盟とユティトレッド魔導王国への忠誠の念を強くしました』
ユーキュリーネは内心とまるで逆の事を、イケシャアシャアと言いのけた。
彼女としても、見苦しく抗議なりするのは後々自身の評判が下がると、計算しての爽やかな敗者の弁である。
『いや、君もなかなかに見事な操縦であった。その魔ローダースキル神速、ますます伸ばして同盟の戦いに役立って欲しい』
気持ち踏ん反り返りながらセレネは返答した。
(くっ……)
『ええ、仰せのままに』
対してユーキュリネイドは胸に手を当て身を屈めた。
『では生徒会長殿、討伐部部室館の継続使用と雪布留さんの喫茶店開店を許可頂けるのだな?』
『もちろんですわ、騎士に二言はありません! どうぞ気持ちよくお使い下さい』
その声は気持ち怒りで上ずっていた。
『だ、そうだ雪布留さん良かったな!』
『こんな状況で喜べないわよ! けど勝利おめでとうセレネ、教官を続けられるわね』
『じゃあもう開店はしない?』
『ううん、開店はするわよ』
少しだけセレネはコケた。
「スナコちゃーーん! お疲れさまーっ!」
勝手に実習が終わったと勘違いしたルンブレッタが、スナコと兎幸のル・ツーに向けて大きく手を振った。
気付いたスナコがル・ツーの片手を軽く上げる。
「セレネもう実習終わったのか? 自分の事しか考えてないだろう、昔のままだな」
「それよか雪布留さんにお慰めの言葉を伝えたい、中に入って良いのか?」
「誰かセレネに終わりの挨拶しろって言った方が良いんじゃね?」
蘭観がハンドルを握りながらセレネのXSに指を差す。
『セレネ、忘れてるでしょ? 実習の終わりの挨拶しないと!』
スナコはルンブレッタ達の会話を聞いて慌ててセレネに秘匿通信を掛けた。
『そ、そうだったな。では皆の者聞け、今日の実習は後半から実践的な剣術の模擬試合が出来て……』
満足したセレネ教官がのんびりと挨拶を始めようかという時であった。
キィーーーーーン、キュイーーーーーン
突然この異世界には存在しない、ジェット旅客機の様な甲高い騒音が空の彼方から聞こえ始めた。
ちょうど蛇輪が飛んで来る様な音である。
『これからも魔法射撃訓練など……うるさいな、何だこれは?』
ギュイイイイーーーーン!!
どんどんと騒音は大きくなって来る。
『あれは何?』
『え、何か飛んで来る??』
『赤い光が??』
生徒達の何機かのXSがざわざわし始める。
『セレネあれ何?』
『雪布留さん黙って。おいお前ら、まだ実習中だぞ』
ギィイイイイイイイイイイインン
しかし騒音も光もどんどんと大きくなって来る。
ストッ
唐突にその音の正体は分かった。
突如としてセレネと生徒達XS25の只中に、まるで知り合いでもあるかの様な佇まいで銀色の魔ローダーがタスッと舞い降りた。
『えっ大きい?』
『何これ? 実習??』
その魔ローダーは通常の魔呂25Nメートルの1.3倍程の巨大さで、ぬるっとした銀色の近未来的な流線形をした、誰も見た事が無い様な姿をしていた。
一言で言えば不気味であった。
『侵入者っ! 全員抜刀!!』
瞬間的にセレネは叫んでいた。
ユティトレッド魔道王国・地図




