魔ローダースキル発現
「あ……う……」
開いたハッチからユリィーナが少しだけ身を乗り出すと、白目をむいてガクッともたれ掛かって倒れた。
「いけないっ! 回復(強)回復(弱)フルエレにも言ってくれ!!」
素早くル・ツー千鋼ノ天が倒れたXS25に接近すると、両手をかざして回復スキルを掛けた。
パシュウッキラキラキラ……
ユリィーナにキラキラ粒子が舞い降りた。
『雪布留、スナコが回復を掛けてって!』
『あ、うん! 回復・回復・回復』
自分がした癖に呆然としていたフルエレは、砂緒に促されてようやく蛇輪の回復スキルを掛けた。再び派手にキラキラ粒子が雨あられと舞い降りた。
「がはっうーん、くっ」
苦しそうな顔をしながらもユリィーナは少しだけ身体を動かした。
『やったわっ動いた!』
ようやく安堵した雪布留は自分がやった癖に涙を滲ませた。
「あんたね?」
それを呆れながら見て、猫呼は肩をすぼめ目を細める。
ピーポーピーポーー
サイレンを流しながらやって来た救急魔車が、ダランとして口から血を流すユリィーナを担架に乗せて連れて行く。しばし生徒達は沈痛な面持ちでそれを眺めた。
『今速報が入った、スナコの応急処置が早くユリィーナくんは後遺症も無く命に別状も無い。近々に学校に復帰出来るであろうという医療魔者の見立てだ。それと……これは言い洩らしていたが、雪布留さんは邪竜に襲われた影響で、時々バーサーカーモード的になる。今回の事は不幸な事故であった』
セレネは邪竜邪竜言い過ぎる余り、雪乃フルエレ女王が化ける女黒騎士のY子ちゃんと、砂緒の女装スナコちゃんを混同し始めていた。
『え、邪竜に襲われたのってスナコちゃんじゃ無かったっけ?』
『雪布留さんも一緒に邪竜に襲われていたの?』
『何故邪竜に襲われたらバーサーカー的になるの??』
『教官むちゃくちゃ言ってません?』
生徒達は口々に言い合った。
『雪布留さん……雪乃フルエレ女王、噂通りなかなかに凶悪な御方の様ですわ。だからセレネ王女があれ程恐れているのね? ルシネーアさんも気を付けるのよ』
『はい会長』
しかしユーキュリーネは一人妙に納得していた。
『コホン、二人の戦いをお手本としようと思ったが、不幸な事故が起こってしまった。ついては気を取り直して、先生とリュディアくんの試合でお手本を見せよう。良いなリュディアくん?』
セレネのXS25は彼女のVT25スパーダにびゅっと竹刀を向けた。
『え、は、はい!』
完全に気を抜いていたリュディアはびっくりして姿勢を正した。
『ルールは先程通りだ、では礼!』
『お願いします』
二機は礼をすると、早速に剣を構え合った。
『遠慮なくどんどんと打って来い! 先生はバーサーカーにならんから怖がらなくて良いぞ』
『はい! なら……行きます!!』
少しおっとりした感じのするリュディアだが、奮起した様に剣を構えると本当に遠慮なく突っ込んで来た。
ガシャンガシャンガシャン
鎧の様な装甲の音を鳴らしながら走って来る。
『もっと腰を入れろ!』
『でやああーーーっ!』
ビュンッ!
思い切り振り下ろした巨大木剣をセレネのXSは難なくヒラリと交わす。
『遅いっ!』
言いながら竹刀の先で通り過ぎた背中をちょんっと押すと、思わず前にコケてしまう。
ドターン!
『あいたたた』
『ほら、早く立てっ』
『はい!』
ースポ根ものの様に、以上の様な動きが何度も繰り返された。
『はぁはぁ……まだまだ』
『なんだ、気合ばかりで全くなってないな! そんなんで戦場に出たら瞬殺されるぞっ』
『行きます!』
おとなしそうな外見とは裏腹に、根性のある所を見てセレネは感心した。だが内心は隠しどんな打ち込みも全て先読みして、見切った動きで剣を交わす前に避けてしまう。
『どうする、もう止めるかな?』
『いえ、まだです!』
熱い二人とは別に、見ている生徒達は段々と冷めていく。
『早くして欲しいですわ……』
『ですね』
ユーキュリーネも避けられてはコケる動きに飽き飽きしていた。
『あの子、凄い根性だわ』
『あたいらと同じ一般庶民の出らしいけど、凄いっスね』
『ウチ、熱くて涙が込み上げそうっスよ!』
『そこまででもにゃいわ』
猫呼もどちらかと言えば冷めて見ている。
『やはりもうそろそろ休憩したまえ!』
ひらひら避けながら、セレネが言った直後であった。
『このーーーっ避けるなあっ!!』
ビュンッッ!!
片手で木剣を持ったリュディアのXSがもう片手を前に掲げると、そこから突風が吹いてセレネのXSを直撃した。
『なに!?』
突風が直撃したXSは一瞬バランスを崩し、余裕の動きが裏目に出て足がもつれる。
『そこだっ!!』
パシッッ!
一瞬の隙を突いたリュディアのXS25は、綺麗な動きで胴に打ち込みを一発入れてしまった。
シィーーン
意外な結果にグラウンドはまた静かになった。




