フルエレさん……? 惨劇
『よし、勝負は面打ちか胴に有効打を入れたら勝ちとする。籠手はノーカウントだ。それと前に出ず無気力試合をやらかしても減点するからな! まずは両者礼!!』
『お願いします』
『お願いします』
『構えーー、始めっっ!』
セレネは勢いよく竹刀を振り下ろした。それを見て、雪布留の蛇輪はビクッとする。
『は、始まっちゃった!?』
「雪布留がんばりなさいよ? 斬り殺されにゃいで」
『うおーーやっちまって下さい!』
『負けたくないっス!』
大人数の蛇輪内はガヤガヤ言って、雪乃フルエレの気が散った。
『ちょっとうるさいわよっ!』
等と言っている間にも、木剣を構えたユリィーナのXS25はどんどんとにじり寄って来る。
カシィーーン!
遂に両者の木剣がかち合った。
『行きますわ!』
カシィーンカシィーンと次々に繰り出すユリィーナの剣を、なんとか蛇輪の雪布留はかわして行く。余程腕に覚えがあるのか、ユリィーナはド派手な蛇輪の姿にも気圧される事無く余裕で剣を繰り出して来る。蛇輪は防戦一方で手を出す事が出来ない。
『雪布留がんばってーー! と、スナコちゃんが言ってるぴょん』
『ややこしいな』
声を出す事が出来ないスナコはひたすら必勝の念を送った。だからと言って何になる訳でも無いが。
カシィーン、カシィーーン!
その間もやはりユリィーナのXS25が優位に次々と攻撃を繰り出す。
『めーーーーーんっ!』
ヒュッ!
隙を見て、遂にXS25が蛇輪の頭頂部に木剣を振り下ろしたが、寸前で蛇輪は横に避けた。
『危ないっ!?』
『ふふふ、避けてばかりでは勝負になりませんよ! その派手な機体はコケ脅しですか??』
遂に見切ったとばかりに、今度はすり抜けざまに胴を切り裂こうとする。
カシィーーン!
しかし雪布留は、かなり無理な体勢で逆手に持った木剣でなんとか胴斬りを防いだ。
『うっ』
『あぶない雪布留さん!』
ミラが叫ぶが、受けた衝撃で足がふら付いた。
『ふふっそんな事では情けないですよ! えいっ』
ガシッ!!
ふらついた蛇輪の胸の辺りを、XSの足の裏が思い切り蹴った。
ドシーーーン!!
衝撃で後ろに尻もちを着いて倒れる蛇輪。中では凄い衝撃が走った……
『キャーーーーーーッ!?』
『ちょっとしっかりしにゃさいよーー!』
(フルエレ!?)
(フルエレさん??)
『こらーー! ピッピーーッ組打ちは禁止だぞ、手足を出すな!!』
思わずセレネは竹刀を振り上げた。蛇輪は尻もちをついたまま動かない。
『あの雪布留さんて子のド派手な魔呂、たいした事ないですわね?』
『所詮どこかのお金持ちの道楽なのかしら?』
『XS25って案外性能が良いですのね』
『もう勝負ありましたわ……』
ユーキュリーネ始め、生徒達がひそひそと会話し合った。
『…………』
「雪布留?」
ゆっくりと起き上がった蛇輪の上の操縦席内では、横に立つ猫呼がフルエレの様子の違いに気付いた。彼女は天使で聖女の様な容姿とは裏腹に気が短くそこそこ心が狭い……
『……よくも……やったわね……』
「うっフルエレ、これは練習試合よ、しかも相手は実戦も知らないヒヨッコよ」
猫呼は小声で必死に彼女をなだめた。
『ふふふ、怖くて動けませんか? ならこちらから行きますよ、でやーーーーーーっ!』
XS25のユリィーナは決着を決めてやろうと木剣を振りかぶりながら走って来た。しかし蛇輪は全く微動だにしない。
ドシンドシンドシンドシン……
『でやーーーーっ覚悟ぉーーーー!!』
『ちょっとぉーー動きにゃさい!?』
『雪布留さん!?』
ビシューーッ!
木剣が振り下ろされ、蛇輪の頭にヒットしようかという瞬間、フルエレの目がビカッと光りスッと身を屈め余裕で避けた。
ドシューーーッ!!
しかし次の瞬間、蛇輪の鋭く尖った爪がXS25の片腕を切り落として飛ばしていた。
『えっ?』
一瞬過ぎてユリィーネ自身も気付いていない程だった。
『まだだっ!』
ビシュッ!
残りの腕が飛んだ直後次の瞬間、さらにXS25の首根っこを掴んだ蛇輪は恐ろしい怪力でブンッと身体を振り上げるとそのまま地面に叩き付けた。
ドシャーーーン!!
『ぎゃーーーーーー!?』
バシャッ!
断末魔の叫びの直後、地面に叩き付けられ緊急脱出ボルトが飛び散り、ハッチが開いてXS25は動かなくなった。
ビシュッ!!
その直後、駄目押しに鋭い爪で首まで刎ねてしまった……
シィーーーーン……
全ては一瞬の惨劇であった。生徒達もセレネも余りの惨状に一瞬誰も何も言う事が出来なかった。
『……ハッやってしまった!? 私なんて事を……怖い』
『雪布留さんのアホーーーッ!!』
自分のやってしまった事に愕然とする雪布留にセレネは血相を変えて怒鳴った……
(君それ、全く笑えない未〇や〇えやないか)
スナコも眼前の出来事に言葉を失った。




