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心の痛み……


 ー別れ際。


「セレネおやすみ!」

「知らんわ」

「え?」

「雪布留さんまた明日お会いしましょう」

「うふふ」


 ラフィーヌとアルピオーネが代表してセレネと雪布留に挨拶をしてこの場は一旦解散となった。しかしゾロゾロと去って行く男共の中から、ルンブレッタが逆方向に走って戻って行く。


「スナコちゃんこれ、洗濯してある毛布とお菓子とジュース! 急いで持って来た。あそこに男子寮があるから、何かあったら入口のおばちゃんに言って叩き起こして!」


 スナコは無表情で荷物を受け取った。


「……」


 両手に荷物を持っているのでボードが書けない。


「僕さー、ここの連中と同じで魔法機械とか魔ローダーとかが好きで……同じ趣味持ってる女の子いないかなって妄想してたんだ。スナコちゃんは工学向きなスキルもあるし、魔ローダーも動かせるし、凄く……思い描いていた様な理想の女の子なんだ!」


 恥ずかしそうにルンブレッタは伏目勝ちにいきなり本心を打ち明けた。


「……」


 ズキッ

 砂緒の心に今まで感じた事が無い様な痛みが走った。


(うっヤバイ、これが心臓病!?)


 そんな様子を雪布留と猫呼とセレネが見ていたが、セレネの顔だけは大変険しかった。


(わしわい!? 魔法機械好きという私の特色はどこに消えたの!?)


 雪布留は二人と全く違う事を考えていた。


「スナコ行くぞ!」


 険しい顔のセレネに背中を押され、スナコは一瞬だけ軽く頭を下げて仮眠室に向かった。間違いが起きない様に紳士な美形男子軍は仮眠室に寄り付かない。ルンブレッタはその場で動かず女子軍に笑顔で手を振り続けた。



 ー学院ファクトリー仮眠室。

 工場風の建物の中二階の様な踊り場に仮眠室はあった。仕切りの無い仮眠室からは蛇輪や組み立て途中の試験魔ローダーや、一旦放置されたル・ツー千鋼ノ天などが丸見えであった。そこにお菓子を広げ毛布をひいて眠る前の少しのお喋りが始まった。


「部長、此処シャワーも何も無いですゼ」

「寝れるだけましという事か」


 ミラの言葉にセレネがキョロキョロしながら言った。


「パピヨーン・パージッ! でも魔呂と一緒に寝れるなんて私結構幸せだわっ!」


 男共が去ったので、妖しいパピヨンマスクを外しながら雪布留が背伸びをした。


「……すいやせん本当に雪布留さんって雪乃フルエレ女王陛下さまなんですか?」


 ジーノが激しく疑いの目を向けながら言った。


「失礼だぞ、あの因縁のメドース・リガリァを滅ぼしたのが誰あろうこの御方だぞ。怒ったらお前らなぞ蛇輪で瞬殺なのだからな」

「ひえっ」

「すいません」

「そんな事はしなーい!」


 ちなみに兎幸は既に寝ている。



 つまらない話が続き、そろそろ寝ようかという話になった……


「ふぅーじゃあ、あたいらも寝るとしますか」


 等と言いながらミラが癖で制服の上を脱ぐ。んぼろんっとシミーズの中の大きな胸が飛び出て現れた。


「お前っ不用意に脱ぐなっ!」

「えっ? す、すいません」


 セレネは砂緒の好きな巨乳が現れて、慌ててスナコの方を見た。


「……」


 だがスナコは魂を抜かれた様に、大好きな巨乳にも気付かずじっと遠くを見つめたままであった。


「どうしたのスナコ、何ぼーっとしてるのよ?」

「おいおい」


 猫呼と雪布留がスナコの肩を揺らした。


『え?』

「もしかして……お前ルンブレッタの事考えていたのか?」


 こくっ

 スナコは可愛く無言で頷いた。


「乙女だなーお前」


 ミラが悪戯っぽく肩を突いた。しかし砂緒の脳内は少し違った。


(いつか……ちゃんと本当の事を言わないと……何故か心が痛む……こんな気持ちは初めてです……)


 またボーッと一点を見つめ出した。


「お前、また何考えてんだよ? スナコあのルンブレッタが、例えばキスしようとして来て、お前耐えられるのかよ!?」


 突然セレネは飛躍した事を言い出した。これくらいショッキングな事を言って、目を覚まさせ様と思ったのだった。

 こくっ

 スナコは小さく頷いた。


 キュキュッ

『……キスくらいなら……いいかなって思い始めてる』


 セレネはコケた。


「スナコ早いよーー! 出会って半日でもうキスして良いとか早過ぎだにゃーー!」

「そうよスナコちゃん貴方身持ちがエアーウェイトだわっ」

「そうだぞスナコ、自分を安く売るな!」

「あたいは良く分かんないよ」


 がばっとセレネは起き上がって叫んだ。


「早いとか遅いとか超スピード感の問題じゃねーわっ! フルエレさんも猫呼先輩もふざけないで下さい!!」

『自分でもどうしたら良いか分からない……こんな気持ち初めて』


 くっとセレネは下唇を嚙み締めた。


「スナコちょっと来い!」

『うっ』


 セレネはスナコの手首を握ると、そのまま仮眠室から外に出てしまった。

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