出陣、冒険者部隊とフルエレb
「不吉な事言わないでください! 二人は無事に帰って来てくれるんですよね!」
「もちろんそのつもりよ安心して……」
フルエレは猫呼を慰めた。いつになく静かなみんなだった。
遂にリュフミュラン正規軍が、西側に存在する敵国ニナルティナ王国の北部の外れの半島にある魔ローダー発掘現場に侵攻する予定日となっていた。
「す、凄い。冒険者の人達が二十人も集まってくれたの!?」
雪乃フルエレが村の南側に集まり、出陣しようとする集団の中でイェラ達と会話している。
「ああ、猫呼の涙の大演説、見せたかったぞ!」
「それは……少し駄目なやつよね……罪深いわ……」
「見ててくれ猫呼ちゃん! 絶対村と冒険者ギルドを守ってみせるからな!」
見ると、猫呼の周囲で出陣する冒険者達が集まって口々に決意を述べている。
猫呼の人気だけでこんな危険な事に巻き込んで良い物か少し悩んだが、一人でも人手が欲しい為に帰れとは当然言えなかった。
「皆さん本当に有難うござます。冒険者さん達がこんなに参加して下さるなんて心強いです!」
あちこちから気合が入った掛け声が上がる。フルエレは本当に心から申し訳ないと思った。
「皆さん盾や鎧のエンブレムや紋章を外したり黒で塗り潰したりし忘れていませんか? もし戦闘が始まったら顔を隠す物もお忘れ無く。負けると犯罪者として追われる事になりますから! 少なくとももうニナルティナで冒険者登録出来ないです」
生半可な気持ちでいる者が帰る気持ちになる為に意図的にきつめの事を言った。
「フルエレさんは顔を隠さなくていいんですか?」
誰かが手を上げて質問する。
「私はもう面が割れてるから隠す必要が無いんです!」
「言い方」
猫呼クラウディアが小さな声で突っ込む。続けてイェラが言った。
「しかしフルエレ今回は凄いな。分厚い作業着に長いスカートの重ね着に鎖帷子に鉄兜それに魔銃に魔法瓶に予備弾か、髪までまとめて以前のぴらぴらのドレスで戦場に現れた時と違い過ぎるぞ」
「凄く重いの倒れそう。これは……砂緒にこの格好じゃなきゃ、出てきちゃ駄目だって言われたの」
「アイツが装備にまで口を出して来たか!? 不気味過ぎるだろう。次は無視するんだぞ」
フルエレは手首をみつめた。昨日リズに防御魔法が出る腕輪をまた貰っていた。今回は『これは高価な物なのよ大切に使って』と念押しされて冷や汗を出しながら感謝した。
リズ自身は前日に衣図にきっちり別れは告げたとかで今回この場にはいない。非常にさばさばした人物だ。
「ではイェラさん猫呼ちゃんをお願いしますね! 私も砂緒もちゃんと戻って来ますから!」
「もちろんだ……だが本当に行くのか? 今からでも止めて良いのだ」
「フルエレさんいつも色々文句言ってるけど絶対帰って来て。お兄様をよろしく」
猫呼が涙をあふれさせ、声を詰まらせて別れを告げる。フルエレは自分の想像以上に大変な事になっていると今頃ようやく気付いた。
「二人共村をよろしくね!」
フルエレは二人に全力の笑顔で手を振ると、担当した冒険者部隊の先頭をサイドカー魔輪に乗って進みだした。