参戦命令、村を守るために臨機応変に…b
砂緒は村の洗濯屋さんにおしぼりを取りに来ていた。
「今日はいつもべたべた一緒に居る、あのお節介女は居ないのですか? 私はあの女は苦手です」
「?」
砂緒が声の方を振り向くと、確か七華王女の周りにいるスピナとかいう美形の剣士が居た。二人きりというか周囲に女性がいないからか、多少ガラが悪くなっている様に感じた。
「今日は何か殴られたい日だな、という気分なんですか?」
「これは申し訳ありません。口が過ぎましたならお詫びを。実は貴方様の大切なパートナーに関して危険が迫っている事をお知らせしたくお伺いしました」
しゅっと本性が隠され、いつもの慇懃な心が籠っていないモードに変化した。スピナは周囲を見ながら話す。
「実は王都では貴方様の硬くなる特殊能力を甚く買っておりまして、今度の作戦の成否は貴方様がどれだけ敵方の部隊を引き付けるかにかかっていると思われています。その為、貴方様に確実に動いて頂く為に、パートナーの女性、つまり雪乃フルエレ様を人質に取れと、その様な乱暴な意見まで出ております。その上あれ程の美貌です、人質の間に特殊な性癖を持った貴族の方々からどの様な待遇を受けるかも知れません。そうした危険をお知らせしたかったのです」
「その前に私がフルエレを離す訳が無いでしょう。こんな村さっさと出ても良いのですから」
「そうですね。以前の貴方がどの様な素性かは知らぬのですが、化け物が折角得た屋敷やギルドや仲間や家族、全てかなぐり捨てて出ていかれてもそれは関知しない所ですから誰もお止めしません」
「いちいち腹が立つ言い方しかしないニンゲンだな」
「どうぞ大切なフルエレ様の今のお幸せを第一に考えて下さいませ。ではこれにて」
こんな事はフルエレには言えないと思った。フルエレなら迷惑掛けない為にまた行商の旅に出ようと言うかもしれない。ギリギリまで全てが上手く行く道を探ろうと決心した。
「よしそこで魔法防御展開っ!」
「超信地旋回!」
「全力後進!」
ギャーッと激しいキャタピラの音と粉塵を立てて魔戦車が荒野で激しい訓練を続けている。
「よし、行進間射撃! 魔法弾!!」
次々に衣図が指図するが突然魔戦車が止まりキューポラのハッチが開く。本当にひげ面のごつい男が顔を出す。
「大将、これ以上やると魔力吸い取られて死にます! 蓄念池で多少魔力の備蓄が出来ると言っても激しい運動を続ければすぐに無くなります。動けなくなって、魔法防御が消えればただのごつい棺桶ですぜ、俺たちじゃ無理です」
「それ一両しか無いんだ、とにかくどんな状況にも耐えられるように死ぬ気でやれ」
これは厳しいな……と衣図ライグは焦った。