参戦命令、村を守るために臨機応変に…
「バカげてる! 何でそんなわざわざ全滅する為の作戦の尻ぬぐいせにゃならねえんだ!」
衣図ライグがバンッとテーブルを拳で叩き、コースター上のソーダが軽く飛び跳ねる。
その音を聞いた猫呼クラウディアの猫耳や小さな体がびくっとしてステンレストレーで身を隠す。
「落ち着いて」
リズがすかさず声を掛ける。
「すまねえすまねえ」
図体はデカいが別に乱暴者でも何でも無い衣図が猫呼を驚かした事をすぐに詫びる。しかし憤まんやるかたない様子は変わらない。
「ニナルティナの北の外れの半島の発掘現場に攻め入るから、それを防御する為に西に進出しろだと! そんなの十中八九どころか百パーセント罠に決まってる! 逃げ場が無い所にわざわざ攻め入る馬鹿がいるかよっ!」
「私もそう思うわ」
リズが落ち着かせる為に合いの手を打つ。
「しかも魔戦車が南部に集結してるから出撃しろだと? 恐らくそれは張りぼてか何かだろうな! 仮にもし本当に魔戦車部隊が集結してんなら、家を留守にしちまってどうするんだ! やっぱり腹が立って仕方がねえ。俺は絶対に無視するわ。行く訳ねえ」
「俺たちもそう思いますぜ。王都の連中は勝手に全滅してもらいやしょう」
ラフがいつもの様に同調する。あれから一週間後程の王都からの一方的な下命に、臨時の作戦会議室となった貸し切り中の冒険者ギルド一階ラウンジは衣図の怒号独演会となった。
砂緒と雪乃フルエレは貸し会場側の人間として一方的に話を聞く立場となって、一切口を挟まなかった。ウエイター姿の砂緒に至っては話に飽きたのか、掃除や備品の整理を始めている。
しかしフルエレの様子は違った。実は内心魔ローダーに接近出来る事に興味深々だが、そんな事は決して口に出せず耳を巨大にして話を聞いている。
「砂緒はどう思う? 言ってくれよ」
突然衣図が砂緒に振った。何かを拭いていた物を置き、皆に向き直す。
「もし仮に王都の正規軍が半島の袋小路で全滅したとすれば、今度はがら空きとなった王都に、ニナルティナ軍が攻め込んで行くでしょう。そうなるとこの村は常時北と南から攻撃される危険な状態になりますね。つまりどれだけ馬鹿な連中だとしても王都とこの村は一蓮托生という事になります」
「つまり……バカは馬鹿でも死なれたら困る馬鹿という訳か」
衣図が自嘲的に応えた。
「もう一つは、ライグ村義勇軍が事前に西に出撃するというのもまずいですね。もし仮に何かの理由で王都の正規軍が北の半島への作戦を中止でもすれば、我々だけが集中攻撃を受けて全滅する事になります。王都の正規軍が本当に作戦を開始するかちゃんと見定めてから、連中の後で行動を開始するべきですね。王都に忠義建てする必要は全く無いのですから」
突然砂緒はスラスラと自説を述べ出して皆を驚かせた。
この村の処し方はデパート時代にテレビの時代劇や本屋での立ち読みを上から見ていた、関ケ原の戦いの小早川秀秋の動きを参考にした物だった。
「全くその通りだぜ。本当に王都の正規軍が実際に北の半島に攻め入るかも判らねえ。全ては見定めてからだな。ただどんな状況になるかもしれねえ、村の守りを固めて訓練も続けよう」
結局会議は結論を得る事無くお開きとなった。