部室とミラとジーノ
「チッしぃっ、今は待って」
セレネは光の速さで振り返ると、鬼の表情で二人に静かにする様命じた。セレネにとって嫌いな生徒会長と、特にスナコが絡んで変な化学反応が起きる事がとにかく避けたかったのだ。
「あらっお珍しいですわね、討伐部以外にセレネさまにも新たなお友達が? お祝い致しますわっ赤いパン焼きませんと!」
「いや、こいつらは何でも無い。さっ行くぞ!」
(チッ気付かれたっ)
しかしセレネの気持ちをつゆ知らず、雪布留が前にずいっと出る。
「初めまして! いつもセレネがお世話になっておりますですエヘッ! 転校生の雪布留と申します、今後ともよしなに」
と言いながら雪布留は深々と頭を下げた。
「あらあら、これはこれはご丁寧に。転校生の方? 分からない事があればこの生徒会長である、ユーキュリーネ・カナルジ・ヒューゴーに何でも相談しなさい、ね……?」
言いながら生徒会長は、何か急にじーっと雪布留の顔を見つめ始めた。
「はぁ~~い! って私の顔に何かアハハッ」
フルエレは笑顔で誤魔化しながら頭を掻く。
「あら、雪さん貴方どこかでお会いした事って御座います??」
(とても美しいコね……唯の生徒には見えない……一体何処で、えーーっと??)
生徒会長はなおも首を傾げた。
「えっ私会った事なんて無いと思いますけど」
『ご主人様、急ぎましょう』
「そうですフ、雪さん行きましょう」
何か悟ったスナコちゃんとセレネが、ガシッと両側から雪布留の両腕を掴んで無理やり連行して行った。
(はて……??)
生徒会長は不敵な笑顔のまま三人を見送り、そのままの足で生徒会室に戻って来た。
ガチャリ
(フ、雪さん行きましょうって……フ? 雪乃フルエレ女王?)
「アーーーーーーーーッッ!?」
生徒会室に入るなり、突然大声を上げた会長に生徒会メンバーはびくっとして驚いた。
「どうかなされましたか、ユーキュリーネさま?」
恐る恐る書記の少女が聞いた。
「雪乃フルエレが転校してきおった……」
「え?」
「い、いえ雪乃フルエレ女王陛下が転校されて来ました……」
「え、まさかそんな訳が!?」
ガタッ
他のメンバーも立ち上がって驚く。
「ルシネーアさん、まさか私の話を嘘だと仰るの? 皆さんもこの事は誰にも口外禁止ですわよ、良いですわね?」
「はい!」
「はい」
「はっ」
生徒会長の忠実な僕であるメンバー達が胸に手を当てて頭を下げた。
(いつもセレネがお世話になっておりますですって? まさか、あの剣と魔法と戦闘にしか興味が無さそうな、朴訥としたセレネ王女がこんな策士でしたなんて。雪乃フルエレ女王を入学させ、自らが引き連れて栄えある生徒会長であるこのわたくしに権勢をアピールして来るとは……意外ですわっ……くくく、敵ながらあっぱれですわっ良いでしょう、その挑戦きっぱりと受けて立ちますわっ! なんとしても雪乃フルエレ女王をこちら側の陣営に引き入れて見せますわよっ!!)
「おおーーーほっほっほっ」
じっと一人でブツブツ言っていたかと思うと、なにやら突然口に手を当てて大声でオホホ笑いを始めた生徒会長を見て、しもべ達は冷や汗を掻きながら何事かと怪訝な顔で見た。
「良く分からないですけどユーキュリーネ様、恐ろしい御方だわ」
「なんだか良く分からないけどそうですわね……」
縦カールの生徒会長ユーキュリーネ・カナルジ・ヒューゴーは、第一部で東の地【神聖連邦帝国】の重臣、貴城乃シューネと極秘会談していたユティトレッド魔導王国の臣であり、セレネと同じ王族のヒューゴーの娘であった。セレネに比べ順位は低いとは言え、立派に王位継承権を持つ少女であり、二度ほど遠くから雪乃フルエレ女王を目撃していた。
―討伐部部室
この部室は他の部室と違い、離れ小島的なお洒落な洋館の中にひっそりと存在していた。もちろん他に部は入っておらず、討伐部つまりセレネ王女が校内の自室的に好きに使っていた。
「二人共変な事したら許さないからな」
「当たり前よ、早く紹介してよ!!」
『わくわくですー』
ガチャリ
セレネが渋々ドアを開けると、先に入っていたミラとジーノがぴしっと立ち上がった。
「部長ちーす!」
「おかえりっす! ってアレ誰ッスか??」
キュキュッ
『おおおおお、ミラにジーノ息災であったか?』
突然走って行ったスナコが泣きながら二人を両腕で抱き締めた。




