転校生③ 自己紹介
(ぎょっ!?)
思わず無意識に立ち上がってしまったセレネ王女を見て、先生と生徒達はびくっとした。それ程までに彼女は恐れられていた。恐々一瞬振り返りひそひそと喋り合う生徒達。
「ちょっとセレネ様がお立ちに!?」
「どうされたのかしら??」
もちろんその様子は入って来た雪乃フルエレとスナコにも見えている。スナコは怖くなって慌てて思わずフルエレの顔を見たが、彼女は無言でにこにこしていた。
(ヒィッッセレネ王女がお立ちになられたっ!? 転校生に何か不満や不都合があるのかしら?? 生身でドラゴンばったばった倒したコなのよ、腹いせに私も斬られてしまうのかしら!? でも転校生に罪は無いの……そうよ、わたっ私は先生なのよ勇気を出して転校生を暖かく迎え入れて上げる責務があるのよっガンバッ!!)
育ちの良さそうな真面目な女教師は自分を奮い立たせた。
「こ、こほんっ、せ、セレネさま、いえセレネさん……ど、どうかされたのかしら? 授業中ですよ」
先生が裏声で言い終わると、ピシィーンという音が聞こえそうな程教室内に緊張感が走った。
「申し訳御座いません先生。何でもありません」
しかしセレネは無表情でペコリと頭を下げると、素直に謝罪して席に座り直した。
(ホッ……生き残ったわ……有難う御座います神様)
「そ、そうね」
引きつった笑顔を作ると、気を取り直して先生は再び二人を招き入れたが……
「こんにちニャー、皆さんよろしく猫呼だニャー」
何故か二人を押し退けて、密かに付いて来ていた猫呼がいきなり自己紹介を始めた。
(えっ今度は何……? 今日は試練の日なのですか??)
女教師はまたもや頭がクラッとした。そして一番奥の窓際の席では、セレネが恐ろしい顔で静かに見ている事にスナコは気付いてしまった。
(うっセレネが凄い顔で怒っている……)
しかしフルエレは比較的割と落ち着き払っていた。
「あ、あのこの子はぁーー?」
先生はなんとか引きつった顔でフルエレに問うた。
「ええ、この子は専属の荷物運び少女の猫呼ちゃんです」
(猫呼、勝手に入って来て困るじゃないもぅ!)
ざわっ
笑顔のまま答えたフルエレの言葉に、再び教室中がざわついた。
「えっ荷物運び少女?? なんの役職ですのそれ」
「なんて過酷な……あんな可愛いコに荷物運びを??」
「きっと下界を知らない程の方なのね」
ひそひそとフルエレの品定めをする少女達。セレネは頭を抱えた……
「にも、荷物運び少女!? よく分からないのだけど、今度からそんな子を連れて来ちゃダメね? それよりも貴方御自身の自己紹介をお願いしますわ」
使命感に燃える真面目な教師は良く分からない状況に震えつつも、なんとか必死に体制を立て直した。
「はい先生、ぺこり皆さん私は雪布留と申します。粗忽者ですが、皆さま何卒ご指導ご鞭撻ご教授の程よろしくお願い致します。趣味は魔輪です!」
シィーーン、フルエレの美しい容姿と小鳥のさえずりの様な声で新人政治家並みの丁寧すぎる挨拶をされて、クラスメイト一同は一瞬で心を奪われた…‥
「そんなに緊張しなくて良いのよ? 皆貴方のお友達になるのでも丁寧な挨拶ね! じゃあもうひと方の貴方、自己紹介を」
遂に先生はスナコちゃんに振ってしまった。セレネの目が針よりも細くなる。
「あっ先生、このコは昔邪竜に家族を襲われて……それ以来言葉を話すを止めてしまった、私の下僕少女なのです」
ざわっ
フルエレの不用意な言葉に教室中がまたもやざわつく。
「ひそっ下僕少女ですって!?」
「ひそひそ綺麗なお姿なのに、容赦の無い方ですわ」
「尋常じゃない高い地位のご家庭ですわねきっと」
「恐らく貴族や王族……」
「こらっ静かにしなさい! でもじゃあ自己紹介は?」
先生は冷や汗を掻きながらスナコちゃんを見た。
「先生、彼女はホワイトボードで会話するんです!」
「ま、まあそうなのね、素晴らしいわっ! じゃあ早速やってちょうだいな」
先生はつつましい努力と思ったのか、手を合わせて目を輝かせて言った。
キュキュッ
『先生、みなさん私はスナコちゃんと言います。こんなドジでのろまな私だけど、仲良くして下さい!! 趣味は世界平和を祈る事です』
スナコの素直な言葉に教室中が暖かい目で見ているのも無視し、書き終わったスナコはいきなり靴を脱ぎ教壇に向かって深々と一礼すると、いきなり台の上に飛び乗った。
ストッ
セレネは血の気が引いた……
「あ、あのスナコちゃん何を?」
慌てる先生を無視しスナコはまたなにやらスラスラと書き始めた。相変わらずフルエレはにこにこして見ているだけだ。
キュキュッッ
『唯の人類共には興味ありませんっ! この中にエスパー、エスパー〇美、パ〇ケエスパー〇ャ、それに異世界人? 駆逐艦や戦艦の名前の美少女、居たら……』
「だめえええええええええ!! その自己紹介は絶対だめーーーーーーっっ!!」
ドギャッッ! ごばああああっっごろごろごろごろごろごろ!!
スナコちゃんが何やらほぼほぼ書き終わろうかと言う直前、兎幸が開いたままのドアから飛んで来て、スナコを蹴り飛ばして壁にぶち当たって止まった。
「エスパー率高くない?」
「そんな問題!?」
クラスメイト達は騒然となった……




