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姉妹ケンカ②


「遂に正体を現したわね、この性犯罪者! 夜宵(やよい)お姉さまはこの私が守るわっ行きなさいフェレット!」


 片手で雪乃フルエレを守り、しゅたたっと遅れて走って来たフェレットが本来のフェンリルの姿に戻るや否や、いきなり床に転がる無抵抗な砂緒(すなお)に噛みついた。


「任せなっ! がうっ」


 ゴリッ!

 とても嫌な音が深夜の廊下に響いた……


「ギャーーーッなんて事するの!?」


 とフルエレが叫んだ瞬間にはもうセレネが光の速さで飛んで、フェレットを手刀で吹き飛ばしていた。

 ドシュッ


「キャーーーンッ」


 吹き飛ばされたフェレットは横の壁に叩き付けられて気を失い、しゅるるっと元のオコジョの姿に戻って行く。


「セレネ王女さま、何てことするの!?」


 姉妹で何てことするのと言い合う二人。


「お前こそいきなり起きて来てめちゃくちゃだろうが」

「もう一体何よ、皆落ち着きなさいよ」


 猫呼(ねここ)は当然砂緒がこんな攻撃では死なない事を充分承知しているので、落ち着きはらっている。

 ボコッ

 その通り、頭から血をだらだら流した砂緒が無造作に起き上がった。血はダラダラ流れているが、激突も噛まれた傷も瞬時に硬化して防いだので、皮膚が少し傷付いただけの事である。


「大丈夫!? ごめんなさいね、許して上げて」


 走って行ったフルエレは起き上がった砂緒の頭を胸に優しく抱き抱えた。結果的に最初の予定通りフルエレの胸に挟まれた砂緒は、血をだらだら流しながらも思わず至福の笑みを浮かべた。


(ワハーーー天国だ~~~)


 そのままそっと赤ちゃんの様に頬をさらに胸の膨らみに押し付ける。


「もうっ甘えんぼさんねえ」


 等と言いながらもフルエレも笑顔で受け入れた。


「え、何なのこれ?」

「あたしも分からん。急に仲が良くなったな」


 その姿を依世は気絶したフェレットを拾いつつ、ふるふる怒りに震えながら凝視した。


「お姉さま騙されてる、そんな頭のおかしな醜い下僕に取り込まれちゃダメよっ、汚らわしい……」


 再会して少ししか経たない依世にとって、美しい清楚な姉が白馬に乗った王子様では無く、見た目も性格も訳の分からない素性不明の男と、親しくしているのが意味が分からなかった。


「そんな事ないのよ、私はずっとこの砂緒に助けられて来たの」

「フルエレ……おおお? ヒャーーーーハッハッハッ見たか? ぽっと出の妹風情が、この私とフルエレの鉄の絆に分け入ろう等と百万年早いわぁヒャーーーーハハハハハハッ」


 砂緒はフルエレの胸に顔を埋めながら、依世に指を差し勝ち誇った。


「え、何なのこの図? 意味が分からないわよ。何で砂緒がフルエレの胸に顔埋めて勝ち誇ってるのよ」

「あたしが聞きたいわ」


 セレネ以外もう皆忘れているが、相手が形式上義理の姉と弟の関係とされているので、彼女も突っ込み様がなかなか難しかった。


「ゆ、許せない……お姉さまを篭絡(ろうらく)するこの野蛮人が……お姉さま早く目を覚ましてっこの下僕を交換して、見目麗しい貴族とか好青年と交換して!!」


 見目麗しい貴族とか好青年という言葉にフルエレはぴくっと反応した。猫呼はアルベルトさんの事が思い浮かびヒヤヒヤする。


「何て言い方するの? 砂緒と私は二人三脚で女王になるまで頑張って来たのよ」


 ギリッ

 依世は唇を噛んだ。想像していた姉妹の再会と何か違うと思った……その原因は全てコイツだとも。


「ヒャハハハッ分かったか? どうやら出て行くのはお前の方だな。フルエレどうも私はこの妹は苦手な様です。早くこの者を放逐して下さい!」


 さらに砂緒は勝ち誇るが、今夜のフルエレは妙に優しかった。


「そんな事は言わないで上げて頂戴。砂緒にはあんな妹でも仲良くして上げて欲しいのよ、私の大切な妹だもの」


 カチーーン!

 しかしフルエレの言葉はかなり依世の勘に障った。


(あんな妹? 仲良くして上げて!? はぁ??)

「何で私がこんなのと仲良くしなきゃならないの?? 信じられないお姉さまのバカッ!!」


 依世は涙混じりに言い放つと与えられた自室にズカズカと戻って行った。


「バカとは何事なの!? あっこら待ちなさい!! 話しを聞くのよ」


 ズシャッ

 

「あうっ!?」


 フルエレは砂緒を床に投げ捨てると、そのまま依世を追い掛けて行った。


「大丈夫か砂緒?」


 再び床に叩き付けられた砂緒にセレネが優しく声を掛けると、彼は厚かましく今度はセレネにしがみ付こうとした。


「甘すぎるわ! もう寝ろ」


 今度はセレネにまで床に叩き付けられた。


「でも変ねえ、可愛い女の子なら誰でも良い砂緒が、どうしてフルエレに似て美少女の依世に厳しいのかしら? 五華(いつか)にまで手を出そうとした変態なのよ?」


 猫呼が床に転がる砂緒を見降ろしながら指を立てて首を傾げた。


「単純に仲が悪いんだろ」

「そうかなあ、ラブのコメ的には仲が良いって事じゃない!?」

「なんだよラブのコメって。もう寝るわバカバカしい」

 

 ズカズカと部屋に戻るセレネはなんだか嫌な胸騒ぎがしていた。

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