新プロローグ 戦いの前に……a
ー海と山とに挟まれた小さき王国、南側国境地帯。
雪乃フルエレが振り返ると故郷の城の懐かしい魔法のドームが見える。だがやはりまだ家出以来両親の王には会わずじまいで、それ処か自分が無事で今どの様な地位なのかもすら伝えていなかった。
(お父様、お母様……見守っていて下さい)
フルエレは一瞬だけ感慨に耽ると金色の髪を揺らしすぐに前を向き直した。
『フルエレ、本当にお后様に会いに行かなくて良いのですか?』
隣に立つ濃い紺色のとげとげしい魔ローダー、ル・ツー千鋼ノ天に乗る砂緒が魔法秘匿通信で聞いてくる。その操縦席の後ろには大切な妹、依世がぶ然として立ち尽くしていた。
『ううん、砂緒とセレネが代わりに会ってくれたもの。またいつでも会えるわ! 今はそんな時じゃないし』
『こんな近くに居るのに気軽に会えば良い物を……しかし今は大事な開戦前、フルエレさんの御意思を尊重します』
今度はまた隣に立つオレンジ色の魔呂、SRV2ルネッサに乗る長髪の美少女セレネがいつも通り割と無表情に語り掛けた。
『ごめんね、幼くしてご両親を亡くした貴方の前で贅沢をして』
『いえ、気にしてません』
『あのさ、いつまでじっと突っ立っているの!? 私のSRX狙撃カスタムはいつでも攻撃開始OKよっ!』
今度は少し離れた場所から、色も形もル・ツー千鋼ノ天ぽく偽装した同盟の新型機SRXに乗るメランが興奮気味に叫んだ。その背後にはSRX、SRVという色とりどりの量産型機がかなりの数並んで立っている。
『メランさん、配下の同盟正規部隊の統制お願いしますよ。勝手に突出しないで下さい!』
『うるさいわねっ! 私はフルエレさんに話しているのよ』
『ごめんねメラン、今集中してるから少し黙って』
『おい?』
メランの通信は無理やり切られた。
『でもメランの言う通りですフルエレ、此処でずっと突っ立っていても何も始まりません。私ももう大概イライラして来ました。いつもの偽善者タイムはさっさと終わってサクッと侵攻に向かいましょう!』
『偽善者タイムって酷いわ……魔道学園の生徒達まで駆り出して本当に良いのかしら』
『砂緒が余計な事言うからまたフルエレさんに迷いが出ただろーがっ!』
セレネが牙を出して砂緒に怒鳴った。
『じゃあ本人共に聞いたらどうですか?』
『よし、山越え作戦の学院生共に聞いてみるかっ! おいラフィーヌそっちはどんな様子だ? 滞り無いか』
セレネは通常の通信で別の地に立つ魔道学院生部隊に聞いた。
『おおっ雪乃フルエレ女王、ご機嫌麗しいです。我々ユティトレッド魔道学院生部隊はいつでも美しい女王陛下の為に命を投げ出す所存であります! さぁっ我々にお命じを』
魔法通信画面に突然美形の騎士っぽい青年の顔が大映しになる。
『今は真面目な報告だからちょっと黙れアルピオーネ! セレネ、こっちの魔呂部隊の大半を占める魔道学園生達は緊張しているようだが誰一人逃げ出す様な子は居ないよ。皆同盟の為に戦う覚悟は出来ている』




