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リュフミュラン沖ノ神殿乃小島 Ⅰ


「何故砂緒さんが此処に……? もしかして砂緒さんも?」


 加耶クリソベリルは奇異な目で砂緒を見た。


「もしかしてって何ですか? ムード歌謡曲ですか?? 私こそ此処が何処で何で加耶殿が全裸で立ってるのか聞きたいのですが……」


 砂緒はためらう事無く裸体の加耶の胸を見ながら言った。


「? ……目を見て話して下さい。此処は……この景色を見れば分かるでしょう」


 パシッ

 加耶が指を鳴らすと魔法モニター的に近くのピンク空間に複数の窓が開いた。その窓から見ると立ち尽くすヌッ様や飛行する蛇輪(へびりん)にル・スリー白鳥號(はくちょうごう)の姿が見えた。


「ぎょぎょ、これぞまさにどこ〇もドアー?」 


 砂緒は電車の最前列に立って運転席を眺める子供の様にしげしげと外の様子を眺めた。


「ど〇でもドアー? ではありません。此処は恐らく貴方達が格闘している恐ろしい怪物の体内……」

「ぎょぎょっっ何と……つまり加耶殿はこの怪物に丸のみされたと?」


 ぎょぎょっと言ってはいるが砂緒はいたって無表情だ。ただし眼球だけは裸体を見ていた。


「……はい、実は一人で動植物やモンスター採取に行っている時にマタマタの幼生に襲われてしまって……」

「ほほぅ?」


 加耶は至って淡々と話すが、砂緒の目が光った。


「それのみならず、マタマタに襲われている間にさらにこの謎のモンスターに二重に襲われたのです。ただマタマタに包み込まれていた為か、何故か私だけが消化されず同化の様な状態に……」


 加耶は悲し気な目をした。


「ちょっと貴方それ、ピノ〇オやないかっ」


 砂緒は猫と目が合い、ハッとした時の表情で言った。


「?」

「いやいや気にせんで下されハハハ」


 今度は掌を向けてにこにこ笑う砂緒。ここに至って加耶はようやくに会話出来た相手が、どうしようも無いくらいに共感性に乏しい人格に欠陥のある人間と気付いた。


「恐らく貴方は精神だけの存在、強烈に激突した瞬間に精神体だけがこちらに乗り移ったのでしょう」

「ほほぅ? つまり俺がアイツで……じゃなくて、偶然二人分の魂が乗っかったと??」

「恐らく……私の肉体本体は千岐大蛇(ちまたのかがち)の中に在り、砂緒さんの身体はどっかそこらへんに転がっているハズです。今二人は魂だけで会話してるのでしょう」


 その話を聞いて砂緒はアゴに手を当ててしばし考えた。そしてハッとしながら言った。


「つまり加耶殿がラスボスやないかっ!」

「……酷い……決して私がこの化け物を操作してた訳じゃないのに……しくしく」


 加耶クリソベリルは砂緒の電子顕微鏡で見てもデリカシーの欠片も無い言葉に、さらに深く傷付き両手で顔を覆って泣き始めた。


「ややっどうなされた!? 泣くのはおよしなされ」


 悪気は無かった様だ。


「……先程から貴方はどうして私の身体を凝視しているのでしょうか何かヘン?」

「何か変などと、とても立派ですぞ。正直加耶殿には特に惹かれる物は無かったのですが、全裸となれば話は別ですぞハハハハハハ」


 これでも砂緒なりにセクハラオヤジ同様に気を遣った褒め言葉であった。


「え? つまり私は全裸なのですか??」


 加耶は自身と砂緒を交互に見比べながら驚いて言った。


「なぬ? 違うのですかな」

「ええ、私からは立派な衣服を着た状態に見えますが」


 砂緒は多少ぎょっとした顔をした。


「成る程、私てっきり人類共通の夢である、脱衣した状態による精神感応世界に突入したと思っておりましたぞっ」


 マタマタに襲われてしまった相手に配慮の無い最低最悪な砂緒であった……


「それは貴方の願望が具現化しただけではないのですか、汚らわしい!!! 仮に精神感応状態だとしても、なるべく裸は見て見ぬフリをするのが人類のエチケット・マナーのはずですっ信じられない」


 ようやく誰かとまともにコンタクト出来ると喜んだ加耶の心は地に叩き落とされ、怒りに震えた。


「さっそうと決まれば一緒に脱出しましょうぞっハハハハハ」


 彼女の気持ちを無視し、恐ろしい程に無邪気に砂緒は手を差し出して加耶を誘った。


「出て行って、今すぐ出て行って下さい!!」

「およ?」

「早く出て行けっっ!!」


 シュバアッッ

 砂緒は白い光に包まれた。




「ぶはあぁっっ!!!」


 気が付くと、砂緒は夜の海面の荒れる波間から顔を出していた。


『セレネいたっ!! 砂緒はカガチの残骸7時の方向!! 顔を出してる早く掬って!!!』


 夜の海面からひょっこり顔を出したばかりの砂緒を、雪乃フルエレ女王は奇跡的に一発で見つけた。


『どこどこどこ?? うおーーーーー、砂緒何処だーーーっ? いたっ!!』


 目を皿の様にして、真っ黒こげの千岐大蛇残骸の7時の方向を探すと、黒い波間に砂緒が顔を出してあっぷあっぷしていた。蛇輪は急降下すると、瞬時に人型に変形して掌で優しく掬った。

 ビクンビクン……

 同時にセレネは何か気配を感じて本能的に見た。

 

『砂緒確保! なんだこりゃああ!?』


 バリンッ!

 無意識に氷の蓋を蹴り破り、砂緒を放り込んだセレネだが、間近で見た千岐大蛇の真っ黒こげな残骸の中心部に、まだ息がある様に脈打つ動きを見つけた。


『!!! フゥーちゃん走ってっ早く、カガチの残骸の中心部を持ち上げて!!』


 セレネの言葉で一瞬で異変を感じた雪乃フルエレ女王は、フゥーに命じて全高300Nメートルの実体のヌッ様を走らせた。その瞬間に全高10Nキロの幻想のヌッ様は役割を終えて、誰にも気付かれぬままフッと消え去った……


『はいっ!』

『ええっまだ終わってないの~~~?』


 美柑(みか)はようやく倒したと思っていたのに、眉間にシワを寄せた。

 ザシュザシュザシュッッ

 ヌッ様は波を掻き分け海に浸かりながら一気に千岐大蛇の残骸の中心部に乗り込んだ。


『塊を持ち上げて、海水から引き離すのよ! 早くしないと海水で復活しちゃうからっっ!!』

『は、はい! 分かりましたっ』


 フゥーはフルエレに言われるまま、慌てて黒焦げの跡の中から脈打つ中心部を持ち上げた。中心部と言っても今のヌッ様より少し小さい程度である。

 ブチブチブチ……

 ヌッ様が海面から中心核を持ち上げると、球根の根の様に細かい触手がもう海面に伸びていた。


『ぎゃーーーっ何よこれ!?』


 フゥーが思わず叫んだ。


「おお、セレネさん助けてくれてかたじけない、ちょっと私の話を聞いてくださらんか?」 

「おお、ヤバッすっかりお前を救った事を忘れてたっ。無事で良かった本当に良かった」


 セレネはくるくるとせわしなく横と前に首の向きを変える……


「あれからどのくらい経ったのでしょう」

「え? あれからどのくらいって、お前が爆発起こして閃光が消えて一分くらい?」


 セレネは中心核から伸びた根と砂緒を忙しく交互に見比べながら言った。


「え? 一分ですか……? ほほう? いやはや助かりました。所でちょっと聞いて欲しい重要な話が……」

「何じゃー? 今忙しいんだぞ、そんな時に重要な話って何だよ」


 セレネは激しく勘違いして頬を赤く染めた。


『セレネ紅蓮くん、根を切って! 早く切って頂戴!!』


 何か砂緒が言い掛けた所で悲鳴の様なフルエレの通信が入った。


『分かった、フルエレちゃん今行くよ!!』


 白鳥號がビューーンッと急降下して魔法の刃を出した。


『うお負けてられん! 重要な話は後だっ』

「あ、あのセレネさん、今話さないと……」


 砂緒は慌てて手を差しだした。

 ズバアアアアッッ

 セレネはそんな砂緒を無視して尖った爪で根を切り裂き始めた。負けじと白鳥號の紅蓮アルフォードも次々に根を斬り落として行く。


「く、くおおおおーーーーーんんん」


 が、時既に遅く、既に吸い取った水分から八本程の首と羽が再生されてしまった……

 ブチブチブチ……


『全部斬り落としたぞフルエレさん!』

『僕もだいぶ切ったぞフルエレちゃん!』


 二人同時に叫び、ようやく海面から伸びる根っこの様な触手を全て斬り落とした。


『二人とも有難う。でも首が何本か復活してしまったわっそうだわ砂緒、ヌッ様が持ってる残りの首も羽も中心核ごと最大威力の雷で消して頂戴!!』


 雪乃フルエレが目の前でうごめく八本程の首だけとなった千岐大蛇を見ながら叫んだ。


挿絵(By みてみん)

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