出会い 宙ぶらりん空間……
(なんだ……ここは)
どれ程の時が経ったのかそれともほんの一瞬の出来事なのか、寝ている間に突然眩い閃光と大爆発に巻き込まれ、訳も分からずいきなり死んだと思っていたが、気が付くと不思議な空間に居た。遠くにはまるで消えかけのぼんやりとした星雲の渦の様な、はたまた天の川の様な煌めきがうっすらとまばらに点在して見える以外、何も無い部分は本当に何も無い深い真っ暗な空間だった。だがもちろん元々ニンゲンでは無いので恐怖感などまるで無い。
(………………)
シュワーーーッ
ぼーっとしていると突然目の前に、眩く光る大きな光の玉が現れた。
『貴方のお名前は?』
唐突にニンゲンの若い女性の様な美しい声が心の中に直接響き渡って不気味だ。状況的に光の玉が話し掛けている風に感じる。
(……砂岡デパート……建築物だが……)
『そうですね貴方は百年もの長き間、人々の暮らしを支え続けました』
混乱の中色々分からない事が多すぎて、相手の言葉の内容が入ってこない。
『確かにそうですね、怪訝に思っても仕方がありません。これならどうでしょう?』
そう心の中に聞こえ始めた途端に目の前の味気ない虚無空間と光の玉は消え、代わりに見覚えのある自分自身の建物の門構えや内部に装飾されていた大理石のギリシャ風石柱が、どこまでもどこまでも無限に並んで発生した。例えるなら昔のゲームの背景の様に同じパターンが無造作に繰り返されるイメージで、遠くを眺めても同じ大理石の石柱が果てしなく続き手抜きと言えなくも無かった。
光の玉の方はこれまた見覚えのある、昭和の頃に自身内のデパートで採用されていたエレベーターガールの制服を纏った、若い日本人女性に変化して佇んでいた。
「貴方が混乱しない様に、貴方に親しみのある風景のイメージを作成してみました。これで少しは信用して頂けますか」
とても清潔感のある笑顔で話しかける。これが女神という物なら女神なんだろうという気がしてきた。
「ふぅ」
今度は頭に被っていた黒い帯の回ったフェルト帽子を脱ぎ去ると、ふぁあさっと艶やかな黒髪があふれ出し同時に身体の衣服各所が複雑に織り込まれ、CG的な動きでギリシャのキトンとモダンなレディススーツをミックスしたかの様な衣装にチェンジした。
「これで女神度がアップしたかしら」
再び欠片も邪念の無い清潔感のある笑顔で話しかける。考える事全て筒抜けの様だが、彼は女神服よりかさっきのエレガ服の方が好みであった……
「貴方は百年もの間、人々の生活を支え暮らしを豊かにしてくれました。それがあの様な不幸な事故に巻き込まれてしまうなんて理不尽ですね。そこでご褒美として貴方を人間に転生して差し上げましょう」
さらに自信たっぷりに満面の笑顔で突然の謎発表。突然過ぎて何を言っているのだこの者はという感情しか湧かない。誰も彼も皆が皆ニンゲンに成りたいと思い込むなよと怒りの感情が湧く。
「え? 人間になんて成りたくないですって? 元の建築物状態に原状回復してくれれば良い? なんだか交通事故の後処理みたいな味気ない事を言うわね」
(いやさっき不幸な事故と言ったじゃないか。というか本当に交通事故だしな……)
元デパートはなんか噛み合わないなこの人と思い始めた。
「そうだわ! 人間と大理石造りのデパート、両方の特性を持つ事にして差し上げましょうね。それにその特性が活かせる様な、素敵な異世界に飛ばして差し上げましょう!!」
女神と思しき女性は笑顔で両手を合わせつつ、自分の提案にうっとり満足している様子だった。




