神話の終わり ⑧ 真の主様……Ⅱ
「じゃ、早速両腕の再生から始めましょう!」
雪乃フルエレ女王がフゥーの肩を抱きながら言った。
「……女王陛下、分かりましたので仕切るのはそのくらいにして欲しいです。それと肩は抱かなくとも大丈夫です!」
「ブッ」
美柑が吹き出し、フゥーはフルエレとの会話でいつもの調子を取り戻した。
「ええ、元気が出たならそれで良いのよ」
シュ~~
フルエレはそっとフゥーの肩から手を離した。そして全高300Nメートルの巨大なヌッ様は海の浅瀬で片膝を着くと、両腕の再生を始めた。
しかし一方その頃、千岐大蛇眼前の海中のル・ツー千鋼ノ天は、操縦者の大猫乃主が疲労の極みに達していた。
「ふぅふぅ、げはげはっぐぶうっ」
ドゴーーン!!
一息付こうと思った瞬間、再び複数の巨大なカガチの首の腹で数度殴り倒され、水中の中を全高25Nメートルの魔ローダーが木の葉の様に舞った。
「ネコノ……」
ドーンドーーン!!
ますます迫りくる大型船の甲板の上で、メランは残り少ない弾を最後の瞬間まできっちり打ち尽くす為に調整しながら撃ち続け、兎幸はル・ツーが起こす戦闘の水柱がすっかり少なくなった事を心配していた。
『シューネ、もしカガチが再び浮上したら僕はもう全力で戦うよ!』
『若君、左様で結構です。ただし大型船がぶつかってからにして頂きたい。大型船を餌としてしばし浮上するのに時間が稼げるはずです。その時に蛇輪に攻撃要請を』
貴城乃シューネはあくまで大型船をぶつけるつもりで若君紅蓮アルフォードの申し出を押し留めた。
『……分かった。しばし待とう』
―再び海中。
ル・ツーはごぼごぼと泡を吹きながら、叩きのめされたショックで海底に真っ逆さまに沈み行く途上であった。
「ふふふ、げほっがはっもはやこれまでか、無念……セブンリーフの女王陛下と砂緒殿よ申し訳無い……兎幸さん最後に会えて……」
精魂尽き果てた大猫乃主は全てを諦め、沈むままとなりル・ツーから出ていた魔法光も遂にフッと全て消えた。
「……その先程からチョイチョイ出て来るウサコサンとは何者なのだ? 大口叩いていた割にはそこまでか? 口程にも無いではないか……」
突然猫乃の耳に、険悪な仲である長男猫名の声が響いた。
「ふふ、これが俗に言う虫の知らせか、最後にまさかアレの声が聞こえるとはの……ワシもヤキが回ったのお」
猫乃は目を閉じ自嘲的に笑った。
「人の事を耳鳴りの様に言うなオヤジ」
「何!?」
余りにも猫名のリアルな声が後ろから響いて、大猫乃主は思わず目を見開き操縦席を立って振り返った。
「さっきから笑いを堪えるのに必死であったぞ」
本当に操縦席の背もたれの後ろに、貴城乃シューネに仮面もコスチュームも無いまま三毛猫仮面と名乗って姿を消した猫名が、腕を組み不敵な笑顔をして立っていた。猫乃は幻覚ではないのかと、ふと腕を伸ばしたがパシッと払いのけられた。
「何故?」
「まだ疑っておるのか? 何故とは貴様の体たらくを嘲笑いに来たのに決まっているだろうが」
まだ信じられぬという顔の猫乃に、腕を組んだまま見下す様に猫名は言った。その間にもル・ツーはごぼごぼと海の底に沈み込んで行く。
「どうするのだ!? この機体はもうどこにも逃げ場は無いのだぞっ!!」
「逃げる機など毛頭無い。どけっ」
「ええい、どうする気だっげほごほごほ……」
口論している間にも猫乃の疲労は蓄積して行く。もちろん回復スキルや自然回復ボーナス込みのこの状況である。
「もうどけっ老人が! 下がれ」
猫名は無理やり父王の大猫乃主を操縦席からどかすと自らが久々のル・ツーの操縦席に座った。
「ふふっやはりこの機体は落ち着く……どれどれ、貴様に出来る事が我に出来ぬハズは無いっ!!」
ドシュウッ!!!
ずっと父王の戦闘を盗み見していた猫名は、見様見真似でハイパワーモード的なクロアゲハの羽を展開して見せた。暗い水中でビカッと光る両目。
「おお、なんと」
「そこで大人しく見ていろっ!! はぁあああああああっっ」
息を吹き返したル・ツーは突然上昇を始めると、そろそろ敵を見失い再び飛行を始めようかとしていた巨大なカガチの腹に向けて蹴りを食らわせた。
ドカーーーーーンッッ!!
カガチの前面に巨大な水柱が上がる。
「くおおおーーーーーん!?」
「くくっ最初からこの能力があれば、初期の砂緒とフルエレに簡単に勝てた物をっ!」
驚いたカガチは再びバシャバシャと海中に向けて複数の頭を突っ込み始めた。不敵に笑いながら猫名は驚く父王の前でカガチに挑みに掛かった。
『ル・ツー復活!! なんだか再び海中で戦闘を再開したわっ、どんどん近付いてるから良く見える!!!』
(そろそろ飛び降りないと……兎幸ちゃん、覚えてる!?)
メランが兎幸の後頭部を見ながら思わず叫んだ。
『だ、そうだ!! 僕達ももう一度ヌッ様で国引きをする、シューネは一旦下がれ!』
猫弐矢が父王の決死の働きを無為にしてはいけないと、通信を一方的に切ったシューネに叫んだ。
『いや、悪いがル・ツーの調子は関係無く、もはや一度ここまで動き出した大型船は止める事は出来ない。今度こそ通信も終わりとしよう』
プチッ!
『お、おい言いたい事だけ言ってズルいぞっ!』
猫弐矢が叫ぼうと、今度こそ返事は無くなった。
『ふぅじゃあもうそろそろだね……シューネ、キミはもういいよジャマだからバイバイ』
『?』
コンコン
兎幸の謎の言葉の直後、右舷ウイングに出る艦橋のドアにノックがあり、思わずシューネが開けた。
ガーンッ!!
だが開けたドアの隙間をこじ開ける様に、縦型にUFOが突っ込んで来てその腹から巨大なマジックハンドが出て来た。
「なんだこれは!?」
シューネが剣を抜こうとするよりも早く、マジックハンドは無理やりシューネの腰を掴むと、そのまま外に連れ出した。
『フルエレ、そっちにシューネを送るよっ!』
『シューネ様!?』
『え? 兎幸、分かったわGSXの足元に! それよか貴方は?』
雪乃フルエレは慌てて答えた。
『ええい離せっ私に生き恥をかかせる気か!? 許さんぞっ離せっ!!』
個人用未確認飛行物体を通しシューネの叫びが漏れたが、一切無視して兎幸は彼をアナの砂浜に運んだ。
『じゃあ兎幸ちゃん、今度は私と貴方の番よね脱出よっ!』
(私のル・ツー速き稲妻Ⅱ、お別れね……)
どんどん目の前に接近してくるチマタノカガチを見て、メランも遂に脱出を決意した。
「うん、次はメランだから! でも私はこの船に残るからっ!」
「え?」
言う前に、最初からハッチの無いGSXの操縦席ににゅっとUFOのマジックハンドが突っ込まれ、メランを掴んで行く。
「じゃ、バイバイ!」
「ちょ、ちょっと一緒に行くんでしょーーー」
叫ぶメランを無視して、UFOは砂浜に向けて飛んで行った。
『兎幸、貴方も来るんでしょ??』
『ふぅ、今ちょっと用事があるから、フルエレ話し掛けないでっ』
『はい』
珍しく迫力のある兎幸に制止されてフルエレは黙った。兎幸はそのまま落ち着いた様子で艦のブリッジに入って行った。




