兎幸来た、冒険者ギルド喫茶スペースの日々
「ふ~~いい朝!」
「怒るぞ」
「その人に何言っても無駄ですよ~」
昼近くになってようやく両腕を伸ばしながら降りて来たフルエレ。呆れる猫呼とイェラ。
「あの男を変だ変だ言っているが、お前も大概だな」
「まあ心外! 成長期なんですよ!」
フルエレは足を投げ出してソーダを飲む猫呼に気付いた。
「あ、あれ猫呼ちゃん、営業スマイルは? それに受け付け業務はしなくて良いのかしら」
「普段からあんまり手伝ってくれない人に言われたくありませ~ん」
「猫呼ちゃん、なんだか急にやさぐれてしまったみたいだわ。何があったのかしら……」
「お前に影響されたんだろう」
呆れて言うイェラ。
「受付ならあの子がやってくれそうですからご安心を」
猫呼が腕を後ろ手に組みながら、冒険者ギルドのカウンターを咥えたストローで指す。カウンターには天球庭園の兎幸が普通に自然に立っていた。
「雪乃……来た……ここ楽しそう」
「うえ、兎幸ちゃんって移動出来るの?」
「これ……見て下さい」
兎幸の横で浮遊していたUFOがふわりとフルエレの近くに飛んで来る。マジックハンドから一枚の紙が渡される。
「ん、石扉修理費用三千万Nゴールド……、内訳材料費運搬費建設費用……え、え!?」
兎幸がにっこり笑う。実際にはフルエレは膨大な量の魔法力を与えていて、帳消しどころかお釣りが出るレベルの事をして上げていたが、お人好しのフルエレは微塵もその様な事が考えられなかった。
「ね、猫呼ちゃん……ねえ?」
「知りませ~~~ん。私の魔法のお財布は身も心も清い人にしかお金は出せませ~~ん」
「あ、貴方そんな子だったかしら?」
「それよりも、兎幸ちゃんの名前ってフルエレさんが名付けたんですってね。それってもしかして私の名前が頭にこびり付いてて、手抜きで命名したんじゃないですよね~~?」
「うっっ」
図星だった。
「これ嘘……お金……別にいらない」
兎幸がにっこり笑う。やっぱり魔法自動人形ギャグだったようだ。
「でも……嫌な事があれば……事あるごとに出す……」
「うん、やめて。所で砂緒はどこにいるの?」
「砂緒なら久しぶりに多めの敵とかで戦闘に出たぞ。私はいるがな」
「え……」
フルエレは絶句した。
夕方になり砂緒が戦闘で服がボロボロになり帰って来た。
「おかえりなさい! 本当に心配したのよ!!」
砂緒が店内に入るや否や、目に涙を貯めたフルエレがたたっと駆け寄り抱き着く。
「フルエレ……寝ている間に行ってしまって悪かったですね」
「いやいやいや、お兄様は悪くないです! 何で寝てたフルエレさんに謝ってしまうのですか? 騙されていますよ」
別にフルエレは実は悪女で砂緒を騙している訳でも何でも無く、本当に心の底から戦闘に出てしまった砂緒の事が心配で心配で堪らなかったのだ。
ズボラでちゃらんぽらんなフルエレも、こうして涙で駆け寄るフルエレもどちらも真実のフルエレだった。
「それよりフルエレ、敵兵の捕虜が魔ローダー魔ローダー言いふらしていて閉口しました。……ん? 何か一人増えていますね。兎幸ではないですか」
「砂緒……おかえり……来てみた」
真面目にカウンターに立つ兎幸がにっこり笑う。
「魔ローダー?」
フルエレは捕虜の言葉が気になった。