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神話の終わり ⑥ 宇宙キスⅡ……


「……出来ません、フルエレ様も見たでしょう、最初から物理的に無理なんです。何か他の手立てを考えて下さい」


 俯いたままのフゥーは力なく答えた。


「フゥーくん、もう一度だけチャレンジしてみないかい?」

「無理です……」


 やはりフゥーは首を横に振り続けた。


「あぁイライラするわぁ、悲劇のヒロインのつもり!?」


 いきなり普段言葉数少ない正体不明のパピヨンマスクの美柑(ミカ)が呟いて、皆が彼女を見た。皆の視線が集まって肩のフェレットが驚いて、きゅきゅっと背中に回った。


「何でん無か、忘れてくいもんそ、ごほごほっ」


 慌てて美柑は咳払いで誤魔化した。しかしこの言葉にフゥーはカチーンと来てさらにヘソを曲げた。


「……無理です……」

「ちょっと」


 フルエレが再び肩を持った直後。


『アーアー、フルエレ何をしてるんでしょう? こっちはいつでも準備OKですが』

『フルエレさん一体どうしたんですか? もう突入して良いのだろーか!?』


 どこか宇宙行きを楽しんでいるかの様な、場違いな二人の弾んだ声が響いた。事実魔法モニターに映る顔は緊張感の無い笑顔であった……


『……ちょっともう今それ処じゃないのよっ! 砂緒は黙ってて!!』


 ガチャッ!

 砂緒セレネともフルエレが自分の素を出して話せる数少ない親しい間柄だからか、イライラが爆発して当たる様に突然キレて通信を切った。静かに激しい姉夜宵(やよい)の素性を知る美柑はともかく、お淑やかだと思い込んでいた女王のキレた場面に猫弐矢(ねこにゃ)とフゥーは一瞬ビクッとした。



 ―地上三万八千Nキロ静止衛星軌道の魔ローダー蛇輪。

 プチュッ

 宇宙で返信を聞いていた砂緒とセレネに対して、無情にフルエレから一方的に通信は切られた。


『う~ん、どうしたんでしょうねえ、宇宙に上がったら即カガチにアタック出来ると思ってたんですが、なかなかですねえ。ちょっとイライラして来ましたよ。する事無いんで潜水服でも着てみましょうか』


 複座操縦席型の蛇輪の、砂緒が今乗っている上の操縦席は、ハッチが壊れて交換されたのに気密試験がまだ行われていなくて、安全性が保たれていないと渡されていた潜水服だが、結局今現在までハッチからエアが漏れる事は無く、彼はまだそれを着ずじまいであった。そして今手持ち無沙汰で、その潜水服のねじ部分をカチャカチャ回して見た。


『やめい! ちょっと待って、折角だからソッチ行くわ』


 直後にセレネがシャッターを開けて笑顔を覗かせた。


「わわっ何やってるんですか! 大変危険です戻って下さい、私がそっちに行きますから」


 砂緒は慌ててセレネの頭をぐいっと押した。


「何だよ痛いだろーが」

「行きます行きますから!」


 と、言いつつ砂緒は下の操縦席に降りて来てシャッターを閉めた。


「なんだよどっちでも良いだろうがっ」

「駄目ですよ、もし突然壊れてセレネさんが酸欠になったらどうするんですか!?」

「大袈裟だな」


 ボンッ!! ガーーーンガンガン! コンコンカン……

 セレネが言った瞬間、何かが破裂してさらに複数の物が機体に当たって行く音がした。


「何ですか!?」


 ピーッ

 慌ててセレネが魔法モニターを確認すると、先程まで砂緒が乗っていた上の操縦席のハッチが飛び、潜水服諸共エアーが宇宙に放出されていた。さらには良く見ると警報ランプも付いていた。


「ヤベッ、ギリギリだったじゃん」

「はーーーっ危ない危ない、セレネさんのその美しい顔がガッチガチに冷凍食品みたいに凍る所でしたよ」


 等と言いながら砂緒はいきなりセレネの頬に両手を添えた。そしてしばし二人は見つめ合った。


「……ちょっと一旦手を離して下さいタンマ」

「はい」


 セレネが片手をピッと上げると、砂緒は素直に手を離した。セレネは少し赤面していたが、直後にくるりと振り返ってやおら天井のシャッターに向けて、弱い氷魔法を放った。


「フロストカラムッ!」


 ビキッビキビキッ

 シャッターの淵に次々と氷魔法を掛けるセレネ。砂緒は奇異な顔で彼女を見た。


「あのーこれは一体!?」

「パッキン代わりだよ。整備兵鉄拳制裁だなー」

「あのー私激突の瞬間、この下の操縦席のハッチから飛び出さなきゃならなくなったのですが、セレネさん大丈夫ですか?」

「あたしの運動神経舐めんなー、何とでもしてやりゃー」


 二人はビキビキに凍ったシャッターを見上げながら言った。


「ほほぅ? では本題に参りましょう」


 今度は砂緒はセレネの両肩に手を置いた。


「な、何だよ急に本題って何だよ」


 セレネも薄々気付きながら赤面しつつ聞いた。


「……実は、男女が最初に宇宙に来たらしなければ行けない儀式があるのです、ハァハァ」

「息荒いわ。何だよ怖いわ、そうだ宇宙の景色見ないか!?」


 セレネがモニターに指を差した。


「さっきまで散々景色眺め続けて、飽きてフルエレに通信入れたのでしょうが」

「ちょ、ちょっと気分を落ち着かせたい」


 セレネは作り笑いで両手を前に出す。


「どうしたんですか!? いつも奥手で真面目な私をあたかもサキュバスの如く誘惑して来た貴方が、何故そうじらすのでしょう??」

「そんな場面観た事無いわ!」

「まあまあ良いではないかっん~~~」


 セレネの気持ちを無視し、何故か今日はいつもと逆転し妙に積極的な砂緒がタコさんの様に唇を伸ばしセレネに迫った


「やめてっ!!」


 ドゲシッ!!

 いきなりセレネは砂緒をグーで殴った……


「何するですか!? こっちはちょっとしたサービスのつもりなんですが!?」

「何がサービスだよ、前にフルエレさんと来た時も同じ事やったんだろ! それだったら、そんな惰性だったら嫌だよ」


 セレネは両手で胸ドンして砂緒は操縦席の壁まで飛んで行った。


「……違いますよ、全く違います。フルエレとは二回宇宙に飛んで、一回目のあの時は、今思い返しても恥ずかしいのですが、二人とも何となく幼くて……本当に相手の事が好きだったのかどうかも分からず、お互い色々な事に興味本位だけだったのかも知れないですが……キスを」

「いらーん、そんな話聞きとうないわっ」


 セレネは目をつぶって耳を塞ぎ首を振った。しかし砂緒はそのセレネの手首をぐいっと掴んだ。


「聞いて下さい! 此処からが重要なのですよ、それで遂先程の二回目の宇宙の時にフルエレにはっきりと切り出されたんです、別れを」

「え?」


 セレネが目を見開き顔を上げた。


「はぁー私も意外でしたよ。いきなりフルエレの方から私にもういいのよとか言い出して。何か私悪い所あったでしょうか!?」 

(まぁ確かに影で色々してましたが……)


 その微妙な顔色を直ぐにセレネは読み取った。


「フルエレさんが一番言いたかったのは、何かもっと他の理由だろう。まどうせ、お前も影でコソコソ悪さしてたんだろ……それもあるかもな。で、これからどうなるんだ? お前セブンリーフ追放か?」

(……それであのフルエレさんの態度……砂緒を譲るって?)


「何で追放なんですか……いえ、これまで通り一緒に楽しく暮らすと、何だかなぁな結果ですよ」


 砂緒は体育座りで一回転した。


「でも共有物言っておいて正解だったじゃん。繋がりが残って」

「正解なんですか……」


 しばし二人とも黙った。


「やっぱり投票権の為に仮にでも姉弟って事にしたのがマズかったか?」


 セレネも真似をしてくるくる回った。


「そんなの関係ありません。でもフルエレが言ったんです、砂緒の心は何時もセレネの事を思っていると」


 と、砂緒が言った瞬間に、無重力空間にセレネの玉の涙がぽろぽろと浮かんだ。


「……何だよソレ、フルエレさん次第なのかよ!?」

(アレ、何で涙が……)


 感動したのかと思いきや、セレネはひょいっと後ろに下がって自ら壁に当たって横を向いた。


「違います! ちゃんと聞いて下さい、私とセレネの出会いは喫茶猫呼(ねここ)の先輩と後輩というドラマ性の欠片も無い、全く劇的でも何でも無い度つまらない平凡な出会いでしたけど」


 砂緒は再び飛んでセレネを捕まえた。


「度つまらないゆーな」

「でしたけど、私の方から一方的にアプローチしまくって、土下座なんかしたりして非常に格好悪かったですが、今にして思えばあれが私の運命的な出会いだったと思っています」

「だから?」

「だから、フルエレに言われたとかそんな事関係無く、本当に私はいつもセレネの事を想っています。貴方の事が好きです」

「知ってた」


 そう言った直後、二人は痛い程両手指を絡ませゆっくりと唇を重ねた。ふわりとセレネの長い髪が浮き上がり、二人は操縦席内を漂いながらしばらく深く口付けをし続けた。

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