一緒にいるのに別れ ③ 流星……前
カシャッ
通路のシャッターがフルエレにより閉じられた。
『では行くわよっ!』
『はい、いつでもオッケーです!!』
『とっりゃあああああ!!』
フルエレの謎の雄たけびと共に、操縦桿を握り機首を地表に向けた鳥型形態の蛇輪は一気に降下を始めた。
『現在高度三万七千Nキロメートル、言った様に断熱圧縮とやらも起こらず、スカイダイビングと同じ様にするすると降下しているだけです。加速して行って下さい!』
砂緒が指摘する様に、ただただヒューッと地表が接近するだけで何の抵抗も無い。
『音速を越えていいの??』
『いえ、音速を越えると私のキャッチが上手く行かないかもしれませんから、高度八千Nメートルを下回って私をキャッチした瞬間に一気に好きなだけ超加速して下さい』
『……本当に何の為に此処まで上がって来たかわからないわねえフフ』
そんな事を言いながらもどんどん地表が接近して来る。
『綺麗な宇宙の景色が見れたから良いんじゃないんですか!?』
『……さっき言いそびれちゃった、今まで有難う……』
砂緒は先程までの二人の会話を思い出して胸が寂しくなった。
『い、いえ……とは言え、先程からのフルエレの会話って私が死ぬ想定で話してませんか!? 何となく体のいい厄介払い的な……』
『ギクッ……そそ、そんな事ないわよ!? さーーー覚悟してらっしゃい千岐大蛇!!』
『今、あからさまに誤魔化しましたね』
等と言いながらも蛇輪はぐんぐんと地表に接近した。
キラッ
夜空に通常の星々より明らかに大きく煌めく光りが見えた。
『恐らくあの輝きは蛇輪です、もうすぐ地表に到達するハズです!!』
ヌッ様のフゥーが上を向いて叫んだ。
『おおっもうすぐこの憎きカガチが消滅するのですな……』
と、夜叛モズが言った直後。
「くおおおおおーーーーーーーーーーんん!!!」
バクッ
突然カガチが巨大な首をぐいんと伸ばして、絶対服従を掛け続ける桃伝説の頭と片腕含めた肩までを袈裟斬りの様に嚙み切った。
『なにい!?』
『きゃああああああああ!!』
『気が緩んだか!?』
ビューーーンン!!
フゥーが思わず両手で顔を押さえたその直後、超反応して紅蓮のル・スリー白鳥號がラグビーのタックルの様に残りのモモデンの下半身をガバッと抱えて、次々襲い来る首達から機体を救い、そのまま飛び上がった。
『大丈夫か!? 生きているか??』
紅蓮はすぐさま外部スピーカーの大声で叫んだ。モモデンの操縦席内は悲惨な状況であった。もともと夜叛モズと五人の屈強な操縦者がすし詰めであったから、操縦席内部を掠める様にかじられて運の悪い三人の操縦者の上半身が持って行かれていた。そして瞬時に身を屈めた二人の操縦者と最初から席に座っていて助かったモズは、下半身だけとなった同僚たちの死体を横目に見ながら自分の生を実感していた。
「ひっひぃいいいいい!?」
先程まで話していたのに今は下半身だけとなって、血がだらだらと溢れ出る同僚の死体を見て、狂った様に叫びを上げる一人の操縦者。
「鎮まれい!! まだ生きている事を喜べ! 心の中で鎮魂を祈り次の動作に備えよ!」
狂った様に叫び出した男をモズは冷静に叱った。
『大丈夫かい? 絶対服従は掛けられるの??』
「掛けられる訳無かろう! モモデンはもう終わりだ!! 何処かに降ろしてくれ」
モズは中腰で振り返り、風で鳥仮面が飛ばぬ様押さえながら白鳥號に叫んだ。彼の主人である若君だが実は彼自身も気が立っていて思わず乱暴な口調だった。
『分かった!!』
中の生存者達が飛ばされない様に魔呂の手で押さえながら、白鳥號は避難民の列の後端にモモデンの残骸を降ろした。
ドサッ
「助かりましたぞ若君、感謝の言葉も御座いません」
『いやいい、でもさっき乱暴な言葉を使ったね?』
「うっ咄嗟にて」
『冗談! じゃ……あっ!!』
桃伝説を置いて、すぐさま振り返り仮宮殿に飛んで行こうとした紅蓮の目に、その仮宮殿の跡地から大幅にズレて移動を再開したチマタノカガチの巨体が見えた。
『イカンッ絶対服従が消えた途端に、誘引の力が弱まった!? 逆方向に引っ張れんわっ!』
桃伝説の絶対服従が無い今、ル・ツー千鋼ノ天単体では、もはやカガチを固定する力は無かったようだ。
『どうしようどうしよう、せめて腕があれば!?』
『腕があったって……』
(凄くしんどいんだけど……)
半狂乱で叫ぶフゥーの横でセレネは限界が近かった。
「アイスベルグッッ!! 連発!!! これで片腕を治してっっ」
シャキーーンッ! ジャキンッッ!!
突然ヌッ様の上空で大型氷魔法が連発され、発生したばかりの巨大な氷の塊が落下していく。
『分かりましたっ!!』
ビシュッ!!
突然の声にも関わらず、ヌッ様はジャンプすると宙に浮く氷の塊達で片腕を再生した。
「開けて頂戴!!」
声の主はパピヨンマスクを付けた美柑であった。彼女はずっと作戦を見ていたのだった。
バシャッ
「おー、来たんか」
「あんた達だけじゃそろそろキツイでしょ……」
等と言いながらも美柑が操縦桿を握った途端に、セレネは大幅に体がラクになった事を実感した。




