爽やかな午前、戦争参加のお誘い ‐
砂緒は真面目にウエイター姿でテーブルを拭いている。猫呼クラウディアはカウンターで書類を整理し、イェラは簡易調理室でフードメニューの仕込みを行っている。
冒険者ギルドの午前中のいつもの風景だった。突然静かに入り口のドアが開いた。雪乃フルエレが精魂を込めて揃えた調度品の中でもお気に入りだったドアベルは、多くの者の不評から撤去されていた。
撤去する事を相談された時、フルエレは明らかにムッとしていたが皆の総意には逆らえなかった。
「すーなーお君! 戦争い~きましょ~~!」
最初の客は衣図ライグと配下の者共だった。敵国ニナルティナはあれ以降も度々小競り合いレベルの侵攻を繰り返し、その度に衣図は砂緒を誘っていたが無下に断られていた。
「あれ、今日はいつも一緒にいる嬢ちゃんはどしたあ?」
「フルエレならまだすやすや寝ています。当たり前の事をいちいち聞かないでもらいたい」
砂緒が真面目にテーブルを拭きながら振り向きもせずに答える。
「十時だぜ、あの子見かけによらず、やばい子だったんだなあ」
衣図が呆れて話す。
「フルエレさんは実はズボラでいい加減な性格なんです。見た目で得をしています! お兄様は騙されているんです。何でもかんでも命令を聞くのはやめて下さい!」
この前砂緒に言われた事をそのまま本人に言い返す猫呼。
「毎晩なんか疲れる事でもしてんじゃねえの~~ねえ砂緒さんよ~~」
後ろからスリかコソ泥にしか見えない子分のラフがふいに余計な冗談を言った。
「?」
ガシャッ
簡易調理場から物を落とす音が。
「こここ、これで仕込みは終了だな。ふぅ」
「あ、あ、新しい冒険者さんのお名前はこちらの紙だったかな……」
あからさまに猫呼とイェラの動きが不自然にぎこちなくなり、それを誤魔化そうとして余計さらに変になっていた。
自分達が住む館で知らぬ間にこっそり新婚さんの様に何かが行われているかもしれない……二人が普段意図的に触れない様にしている話題に突然ズケズケ踏み込まれて動揺していた。
だが実際には何も無かったので砂緒は意に介さず一人で準備に勤しんでいた。
「そんな事はどーでもいーや。情報では今度の敵はちょっと多めらしい。すやすや寝てるフルエレの安眠を守る為、今回はちょっと出てくれや? 頼むぜ」
少し数が多めという言葉に反応したのか砂緒はエプロンをしゅっと外した。
「よござんしょ、今日は久しぶりに戦場に出てみましょうか」
「おおっ、そう来なくっちゃな!」
敵を迎え撃つ為にいつぞやの荒野に出たが砂緒が期待していた魔戦車は居なかった。
「鹵獲した六両もの魔戦車はどこに行ったのですか?」
「あんなもんまだ修理出来てる訳ないだろうがよ! それに修理しても戦場に出れるのは一両のみ。残りは予備機や訓練用や観賞用や部品取り車だ」
砂緒は以前フルエレにおお威張りで村には魔戦車が大量にある等と解説していたが、完全に間違いだった。一歩間違えば村はいつでも壊滅していた。