仮宮殿崩壊…… ①
「有能メイドくん、すぐさま雪乃フルエレ女王に連絡だ」
「はい!」
振り返っていた有能メイドは再び椅子ごと、魔戦車から降ろした大型魔法通信機に向き直した。
『聞こえますか!? こちらは司令部です、残念ながら千岐大蛇が活動を再開しました』
通信状態は良好であったので、その声はしっかり上昇中の蛇輪に届いた。
『えっ? もう一度言って頂戴』
『はい、カガチが活動を再開、当初の落下予定位置からクラウディア・ラティス川沿いに北上して移動を開始しています! 地上班が固定位置を決めるまでは落下攻撃を中止して下さい』
全て上手く行っていると思っていたフルエレとスナコに衝撃が走った。
『そ、そうなのね分かったわ……地上の人々の健闘を祈って待機しておくわ、でも皆に無理しない様に言ってね』
『はい、有難う御座います! 女王陛下。一旦通信を終了します』
プチュッ
一旦通信が切られ、蛇輪上下操縦席は重苦しい空気に包まれた。
『ふぅ、早くこのガシャガシャ言う鎧と重りを脱ぎ捨てたかったのですが、まさかお預けとは。今更ですが、どういう手順で落下するんです?』
スナコは伸びる訳では無いが、胸元を引っ張りながら言った。
『そうね……今の間に手順をおさらいしておきましょう。まず私が鳥型形態のまま攻撃ポイントまで真っ直ぐ急降下するの』
『ほうほう』
『ぎゅーーーーーんっと落下して大気圏を抜けた後に、やおら貴方のハッチを開けるのよ』
『ほうほう、んで?』
『飛び出た貴方を私が直後にキャッチしてそのままギューンっと落下し続けるの』
『ほうほう、スリリングですなあ』
『それで目標直上で貴方をぽいっと離して私は一撃離脱するの』
『……ほぅほぅ……彗星や流星等と同じ急降下爆撃機と同じ要領ですなあハハハハハハハハ』
『良く分からないけど、そうなの? ふふふふふ』
『って、エーーーーーーッ!? そんな滅茶苦茶なやり方なのですか!?』
『そうみたいねえ』
『マジカ』
砂緒にしては珍しく命の危険を感じた……
と、ここで読んで下さっている方の中には、別に砂緒が落ちなくとも鉛玉か岩石を落とせば良いのではないかという方もいらっしゃるだろうが、さにあらず! 最近出て来ない設定であるが、砂緒は真実の鏡として遥か太古に飛び、それから二つに割れて以降、何度も転生を繰り返し前世の前世で等ウェキ玻璃音大王となり愛妻の死により遂に転生に疲れ、現代日本で最後の転生として石作りのデパート建屋となった……が、それがあえなく事故で崩壊、再びセブンリーフのこの時代に雪乃フルエレを守るべく戻って来たのであった……という訳で、彼は少年の姿に石作りのデパート一軒分の重さを再現する事が可能で、重量爆弾としては最適なのです。
―クラウディア・ラティス川
『カガチは川沿いに北上を続けている。このままゆっくり後退しながら観測を続けます』
「隊長大丈夫ですか?」
「こちらから撃たない限りはカガチは撃たない」
「カガチの目が強く発光!!」
「何!?」
ヒヨンッカッッ!!!
カガチを観測していた魔戦車に向けて、赤い瞳から光線が発射された。タイムラグ無く魔戦車はあっけなく爆発した。
ドーーーン!!
『ザーーーーッ』
『え?』
「どうした?」
「はい、観測魔戦車からの連絡が途絶えました……」
有能メイドさんは通信機を耳に強く押し当てて慎重に聞き続けた。
「どうした?」
ザーッ
『カガチの瞳が発光したのを確認しました、恐らくは怪光線を発した物と』
仮宮殿に、フゥーが操りセレネと紅蓮アルフォードと猫弐矢が魔力を貸すヌッ様が到着した。約三百Nメートルのヌッ様程の全高になると特に索敵しなくとも、狭い西クラウディア王国内の出来事は丸見えであった。
『そうか……で、カガチの動きは?』
『はい、川沿いにゆっくり北上しています。こちらに向かっている物かと』
『早速止めに行こうぜ!』
『そうだな、此処の避難住民達に犠牲者が出たら僕はどうやっても責任が取れないよ』
『はい!』
『ちょっと待て!』
貴城乃シューネは慌ててフゥー達を止めた。
『どうしてですか!?』
『今のを見たであろう? 迂闊に接近して怪光線を浴びたら』
『あれは過去に魔戦車に撃たれた記憶があるからではないか?』
限界突破して、桃伝説に六人で乗り込む予定の夜叛モズも駐機場から口を挟んだ。
『そんな当てずっぽうで行動して良いのか?』
『でも、今すぐ行動しないと仮宮殿が……』
いきなり人々は行き詰った……
『仮宮殿を放棄するしかあるまい。その上で全力で止めに掛かろう』
それまで黙っていた、ル・ツー千鋼ノ天の大猫乃主が衝撃的な提案をした。ちなみに同機には兎幸とメランも同乗している。
『どういう事ですか父上!? いきなり此処を放棄するのですか??』
慌てて息子の猫弐矢が父に問うた。
『これは勘なのだが、カガチの動きがこれまでと違う。恐らく砂緒殿達の動きを察知したのであろう。とすれば奴の目的は住民達が避難する仮宮殿に接近する事で大規模攻撃を防ぐ事ではないかと思う……』
猫弐矢父前王の推測に皆が驚いた。
『カガチにそんな知能が!?』
『本当でしょうか?』
『ちょっと前まで漁師だっただろーがっ信用していいんかよ?』
セレネがあからさまに疑いの目を向けた。
『いや、もはやカガチを止める事が出来ない我々は、最悪の事態を前提とするべきかも知れないな』
意外な事にシューネが真っ先に賛同した。
『しかし、我らの宮殿から逃げるなど口惜しいです!』
(猫弐矢さま……お可哀そうに)
猫弐矢が悔しそうな顔で叫び、フゥーが彼をなんとかしてあげたいと心の中で思った。
『いや、そうであろうか??』
『は?』
『この仮宮殿は神聖連邦帝国が高層神殿を建てるまでの仮初めの住まい。そして此処以前は別の場所に都があった。つまりそれ程この仮宮殿に拘る必要も無いのだよ……大切なのは民』
大猫乃主に言われ、猫弐矢はハッとした。
『その通りで御座います……しかし高層神殿は未だ建てられておりません』
言いながら彼はシューネを少し恨めしそうに見た。
『そ、それは前向きに善処しておる……神聖連邦も急激に版図が拡大して色々と……』
『あんま何でもかんでも広げ過ぎるとこうなる訳だな!』
セレネが何故か威張りながら言った。
『セレネさんあんまり悪役的な台詞はやめて下さい!』
慌ててメランが猫乃の後ろから囁いた。
『悪役て、事実だろーがよ。セブンリーフはこうはならんからなって事だ』
『もういいからやめてーっ』
メランは余計な事を言ったと首を振った。
『どうかな、シューネ殿に猫弐矢、住民を再避難させないかね?』
シューネは猫弐矢の顔を見た。シューネが先に言うべきではないと思ったからだ。
『……お父上の、いえ大猫乃主前王のお考えに沿う事と致します。現時点をもってこの仮宮殿を放棄、住民達に西の浜から高層神殿建設予定地一帯に避難して頂きます……これでどうでしょうか?』
猫弐矢は再び父前王を魔法モニター越しに観た。




