スナコちゃん再々降臨!! ⑧ 王主の帰還……
「何を和んでおるかっ! はよう兎幸殿と砂緒殿にル・ツーと蛇輪の各回復スキルを掛け続けるのだ」
「そうだよ、何してるの!」
漁師のお爺さんに叱られて、雪乃フルエレ女王もセレネもハッとしてぐったりしている砂緒と兎幸を慌てて砂浜に寝かせた。
『ではまず私が兎幸ちゃんに回復(強)と砂緒さんに(弱)を掛けます、その後は蛇輪でお願いしますよ!』
メランは叫ぶと、すぐさま兎幸と砂緒に次々と魔ローダースキル回復を掛けた。
パシュウッキラキラキラキラ……
うなされる二人の頭上にキラキラ粒子が舞い降りる。
『よしスタンバイ来た! では二人に連続で回復を掛け続けましょう』
『そうね、頑張りましょう』
セレネとフルエレが再び蛇輪に乗り込むと、しゃがんで巨大な掌を二人にかざし交互に回復スキルを掛け続けた。その合間ゞにはスキル使用時間制限が解除されたメランも、ル・ツーで繰り返し回復を掛け続けた。
パシュウッキラキラキラキラキラ……
パシュウッキラキラキラキラキラ……
(ぐっ……此処はどこだ? 蛇輪……何処へ行く?)
デパート崩壊以後、砂緒は以前にも数度来ていた宇宙空間的な場所に戻っていた。しかし此処には会いたいセレンの霊は見当たらない。
(……砂緒、頼りないがこれからは貴様だけでフルエレ様を不幸から守れ……)
どこからか消え去ったはずの蛇輪の声が響く。
(実は私は前世の前世だの、割れた鏡だのの実感も記憶も殆どありません、お前が消えればこれからどうやってフルエレを不幸から守ったら良いか分かりませんよ)
実体の無い相手に向かって無我夢中で叫んだ。
(……工夫しなさい。私はこれまでの様です。くれぐれもフルエレ様を頼みますよ……)
最後までフルエレの事を想いながら、幻想の中でも蛇輪の魂は消え去った。
(工夫しろって、いい加減な……)
緒! 砂緒起きてっ
耳元でフルエレとセレネの声が響き、虚空の闇が消え去って行く。代わりに目の前には徐々にしゃがむ蛇輪の輪郭が浮かんで来た。
「うぐっ……はぁはぁ……セレネ? フルエレ……」
目を閉じ冷や汗を流し、高熱か悪夢にうなされる様な状態だった砂緒が、回復を連続で掛け続けられている内に突然目覚めてガバッと起き上がった。
『やたっ砂緒が目覚めた! 降りて会いに行きたいよっ』
魔法モニター越しに起き上がって不思議な顔をしている砂緒を見て、セレネは少し涙が滲んでいた。
『だめよ、放置よ、兎幸がまだ苦しんでいるわっ!』
『私も制限解除次第、引き続き兎幸ちゃんに掛け続けます』
『放置てフルエレさん言い方』
しかし結局フルエレの指図通り、セレネは砂緒の顔をちらっと見終わると、兎幸に向き直した。
『回復!!』
『回復っ』
『回復(強)! 回復(弱)!』
パシュウッキラキラキラキラキラ……
(あの頃と姿は違うが兎幸さん頑張ってくれ……)
その様子を漁師の老人は静かに見守った。
―さらに数十分後。
「はぁはぁ……うっカガチ……」
『見て、兎幸が目覚めたわっ!』
『よし回復を続けよう!』
「いや、もはや兎幸殿の傷は回復した。次はフルエレ殿が魔力を注入してやれば壊れた魔ローンも自然回復するであろう……」
突然蛇輪の前に立ちはだかった漁師の老人は、今度はフルエレに魔力注入を指示した。
『おいおいお爺さん、アンタ一体何様なんだよ』
「信用してくれ、ワシは若い頃全国を旅し、兎幸殿にも会った事があるのだ。もちろんこの子はこんな髭もじゃの老人等分からぬだろうがな」
言いながら老人の目は兎幸を慈しむ様にも、憧憬するかの様でもある不思議な表情で見つめていた。
『セレネ、このお爺さんはル・ツーをあれ程上手に扱ったのよ、言う事に従ってみましょう』
『フルエレさんいいんですか? あたしはどうなっても知らんぞ』
フルエレに言われ、渋々とセレネも続いて蛇輪を降りた。そしてフルエレはそっと魔法自動人形の兎幸の手を握って目を閉じ、魔力を注入し始めた。
「兎幸、元気になって……」
ひたすらフルエレは祈る様に魔力を注入し続ける。
「うっくっふるえれ?? ……あ、痛みが消えた!? あれっ壊れた魔ローンも治った気がする……」
砂緒に続いて兎幸も突然ケロッとした顔になって起き上がった。
「はやっでも良かったあ!!」
「兎幸先輩!!」
メランとセレネが同時に叫んだ直後に事件は起きた。
「兎幸さんッ!! 大事ないか!?」
いきなり漁師の老人が兎幸に抱き着いた。
「……お爺さん誰?」
警戒心の薄い兎幸はキョトンとした顔になった。
「離せ変態! さては兎幸先輩を狙ってたな?」
「ええい兎幸を離せ、この犯罪者がっ!」
「えっ誰なのこの人……」
フルエレが怪訝な顔をして、セレネと砂緒が強く肩を持って引き剥がそうとした直後、パッと老人自ら兎幸を離した。しかしその目には薄っすらと涙が流れていて、漁師自ら直ぐに拭った。
「変態過ぎて感動して涙流しとる……」
「こいつは相当ヤバイ奴ですね、消しましょう」
「兎幸ちゃん可愛いからねえ」
「ちょっとちょっと何か深い事情があるのよ」
元気になった途端に、スナコの姿のまま片手から雷を発して漁師を消そうとする砂緒を、フルエレは慌てて止めた。
「い、いや申し訳ない。昔の知り合いに似ておってな。ではワシは此処で去ろうか」
終始キョトンとする兎幸を残し、漁師は突然踵を返して去ろうとする。
「いえっ待って下さい。貴方も一緒に仮宮殿に来て下さい! きっと皆の役に立つと思います」
「いや変態やないか、普通に犯罪がバレそーになって消えるだけだろが」
「セレネさん落ち着いて。今そんな空気じゃないから……」
フルエレにしては珍しく何かを感じたのか、漁師の前に立ちはだかった。
「そうですね、この変態を野に放っておくと第二第三の犯罪を犯しそうです」
「変態は砂緒さんでしょ」
メランは地声で話しまくるスナコを指差した。
「そうだな……ル・ツーのあのハデハデなハイパワーモードも役に立つだろうし、ちょっと連行するか?」
セレネもフルエレの意見に賛同して漁師を見た。すると漁師はル・ツーをしばしじっと見上げてから皆に向き直した。
「……仕方があるまい、この様な未曽有の事態に際して、皆を放っておく訳にも行かぬか……」
「おっ観念したなっ!! では行くぞ皆の衆!」
元気になった途端に仕切り始めたスナコが指を差した。
―仮宮殿。
早速蛇輪とル・ツー千鋼ノ天は避難民で溢れ返る此処に戻って来た。
バシャッウィーーン
ル・ツーのハッチが開き、メランは漁師の老人を掌に載せて門前に降ろした。
「よ~~し、じゃ行くぞ! 負けたとか失敗したとか突っ込む奴がいたら瞬殺してやるからなっ」
「私は一Nミリも恥じておりませんが、此処よりはホワイトボード会話に戻ります」
「二人とも強気な振りして作戦失敗を気にし過ぎよ……」
フルエレはカガチを倒せなかった事など微塵も気にしていなかった。そしてそのまま人々が無気力に横たわる門をくぐろうとした。
「……あっ貴方様はっ!?」
「あああっもしや貴方は……」
「敬礼っ!!」
不意にそれまでダラけていた門番達が、突然直立不動になって敬礼をした。
「おいおい、あたしらも結構恐れられ始めたな」
キュキュッ
『はははははは、当然です。あれだけの雷を発したんです。宮殿の連中はビビリまくりです』
「……セレネ、砂緒……」
何故か勝ち誇り始めたセレネと砂緒を見て、フルエレは冷や汗を掻いた。
砂緒がスナコ状態の時に時々キュキュッという音が鳴りますが、これはスナコがホワイトボードに魔法マジックペンで書いている時の音になります。
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