スピナ、夜の訪問者b
「お帰りなさいませ。雪乃フルエレさま、砂緒さま」
「誰ですか!」
さっとフルエレを後ろに庇い、砂緒が声の方を向く。だんだん砂緒の行動が普通になって来ていた。
「驚かせてしまい申し訳ありません。王女警護の騎士、スピナで御座います。お二人のお帰りが遅い為に心配してお待ち申しておりました」
いつも言葉は手寧だが心の籠っていないあの美形の剣士だった。それにしても七華の命令でいつも監視しているのかと不気味になる言葉だった。
「不気味な奴ですね」
「こら、それは有難う御座います。それではお休みなさいませ」
そそくさと通り過ぎようとする。
「お待ちを。これをご覧下さい」
突然目の前に宝飾ケースを取り出し、パカリと開けると、中に月明りでも煌びやかなネックレスがあった。
「あの、何ですかこれは」
フルエレが不信感丸出しで聞く。
「七華王女から貴方様にお預けになられた、三毛猫仮面なる怪盗に狙われている王家伝来のヘッドチェーンについて、大変危険で心的負担を強いる物ではないかと憂慮して、代替の宝物をお持ちしました。どうか心置きなくご返却を」
「え、どういう事ですか? それは七華の命令ですか?」
「……いいえ、私の一存で御座います」
「バカにするのか! ヘッドチェーンは返却しないが、それも置いて行け!」
「貴方は黙って。もし七華王女の命令でなければ、あの大事にしまっているヘッドチェーンは私がまだ預かっていたいです。大好きな七華王女と私の友情の証なんです!」
ヘッドチェーンは無造作に雑貨に紛れてポシェットに入れているし、七華との友情というのも怪しい大嘘だった。
この丁寧で慇懃な言葉に全く心が籠っていない為に、なにもかも信用出来なかった。
「所でヘッドチェーンを三毛猫仮面が狙っているとどこで知ったのですか?」
砂緒でもあまりにもうさんくさい話だと思った。
「…………皆さん言っていますよ。では私は城に戻りましょう。それでは」
すっと闇夜に消える騎士。
「もう寝ようよ、今日はなんだか急に色々な人に会ったわね」
「そうですね……おやすみですね」
車庫横の裏口から静かに入り、二人はそれぞれの部屋に戻って行った。