スナコちゃん再々降臨!! ① 飛翔
―少し時間を戻す。
『でやああああ!!』
フゥーが操縦するヌッ様が巨大な手で山を切り崩し、その土砂を川に投げ入れダムを作り、その横でGSX-R25達三機が掘る新たな水路に川の流れを導く。非常に強引な突貫作業で、この新しい川の流れで被害を被る地域も出て来るが、そもそも千岐大蛇の被害で殆どの住民は避難しており、もはやそれ以上のカガチの脅威の前に、被害を考慮している余裕は無かった。
『凄いわ……みるみる新しい川の流れが出来ていく……魔ローダーの力は計り知れないわ』
恐ろしい勢いで地形その物を変えて行く巨大魔ローダーヌッ様の姿に、雪乃フルエレはわくわくが止まらなかった。以前砂緒達とリュフミュランで新・幹道を作った時よりも遥かに大きなスケールの工事であった。
『確かに……夜叛モズが言ってた水攻めとは実質真逆の行動だけど、壮大だね。それもこれも無限の魔力で支援してくれるフルエレくんのお陰だよ』
紅蓮の為に少し影の薄くなった猫弐矢がここぞとばかりにフルエレに感謝の言葉を述べたが、それはフゥーの内心に少し不満を生んだ。
(私だって頑張っているのに……)
しかしフゥーは表情を変えずに作業を続けた。
『でももうほぼ作戦は完了じゃないか? 此処までうずたかくダムを作れば、もうチマタノカガチが浸かる川の水は無くなって来ているハズだよ! これもフゥーちゃんの頑張りのお陰さ』
『そうね!!』
しかしすぐさま今度は紅蓮とフルエレが立て続けにフゥーを称えて、先程まで不満を漏らし掛けた彼女は自分を恥じた。
『私なんて……では一応作業終了としますか? GSX隊の皆さんもご苦労さまです!』
『ハッ!!』
約三百Nメートルの巨体のヌッ様が加わった事で、驚異的なスピードで川の流れを変える工事は完了した。フルエレ以外の魔ローダー操縦者と魔力補助者達は、やれやれと額の汗を拭い、その場から動く事も出来なかった。
『お疲れさま、フゥーちゃん!』
『は、はぃ』
最後にもう一度フルエレが天使の様な笑顔でフゥーを慰めて、フゥーは気恥しかった。
―カガチを誘引中の蛇輪&ル・ツー千鋼ノ天組。
『いやー私も悠久の歴史を生きて来て分かった事は……』
『……』
突然止め処もなく独演会の様に喋り倒す、蛇輪の装甲材になってしまった真実の鏡の話を聞き続けて、セレネもメランもほとほと疲れていた。それで無くても付かず離れずでチマタノカガチを微妙なバランスで誘引し続けるという、地味で神経をすり減らす作業を継続中であったからイライラは高まっていた。
『うりゃっ!!』
ゲシッと突然セレネが再びコンソールを蹴り上げた。
『何ですか急に!? でも、セレネ様に蹴られる事も存外悪い事じゃないな、という気がして来たんです』
『変態かよ……』
言いながらセレネは目を細めて目の前のカガチを眺めた。
『セレネ見て! 川の水が完全に止まっているわっ』
『ほんとだわ、からっからに干上がってるわ』
突然のメランの声で、沈み込んでいたセレネはパッと明るくなった。
『凄いわね、本当に川を堰き止めて向きを変えちゃったのかしら??』
『だろうな、このまま朝まで誘引し続けて、次の夜に総攻撃だな……今度こそ殲滅してやんよ』
セレネが意気揚々と言った直後だった、突然微妙な揺れが起こり、周囲の木々がざわざわと揺れ始めた。もちろん宙に浮いているセレネの蛇輪は揺れの影響は受けないが、一体何事かと警戒した。
『風?』
『いや違うな、どうやらカガチを中心に微妙な振動が起こっている様だよ』
ベキベキベキッ!!!
しばらく振動が続いた直後、突然にカガチの無数の首達の根本辺りから、二本の巨大な何かが発生して突き出し始めた。
『何だ!? 何か生えて来た』
『どんどん大きくなっていくわよ!?』
『これって翼じゃない?』
『怖い事言わないでよ』
しかし恐れていた事が現実化してしまった。廃棄されたチマタノカガチも蛇輪の特技を受け継ぎ、飛行能力を獲得しようとするかの様に、巨大な翼をさらに伸ばし始めた。
『撃つか!? とにかく翼を破壊しよう!!』
『うん、私も撃つ!!』
セレネは光の輪から剣をニョキニョキと生えさせ、メランは巨大な魔砲ライフルを構えた。
「くおおおおおおおおんん!!」
バサッ!!
が、二機の攻撃を察知したかの様に、カガチが遂に超巨大な翼を最大限伸ばし、さらにそのまま羽ばたかせ始めた。
『くっ構わず根本を撃って撃ち落とそう!!』
『うん』
『頑張って下さい……』
『お前がやるんだよ』
他人事の様に言う蛇輪にセレネが叫んだ。
シュパパパパパ!!!
ドンドンドンドン!!!
二人は敵のリアクションに構わず先手で攻撃を始めた。
「ギャーーーーーーッ!!」
が、無数の首達が翼を守る様に盾になり、二機の攻撃が当たって頭が四散して行く。それに比して巨大な翼の動きはバサッバサッとどんどん力強さを増し、遂にはカガチの五百Nメートルを超える巨体がふわりと浮き始めた。
『ギャーーーーーーッ!? 飛んだ??』
二人をゴキブリが飛んだ時の一億倍くらいの衝撃が襲った。
『ちいっ、根本は諦め左側の翼の先端を狙おう!』
『了解!!』
息がぴったり合う二人は、セレネが叫んだ直後に再び撃ち始めた。
シュパパパパパパパパパ!!!
ドドーーン!! ドドーーン!!!
魔砲弾の激しい閃光と色とりどりの光の剣が巨大な翼の先端に降り注ぐ。が、巨大なカガチは意外にも機敏な動きで空中で体を捻り、翼への直撃を巧みに避けた。そしてそのまま逆方向からぐんぐんと蛇輪に迫って来る。数多くの首達が巨大な口を開けて、後ろに逃げる蛇輪とル・ツーに嚙みついて来ては、二機は寸でで牙を避けた。
『セレネ様、誘引を中断して高速で離脱しましょう! 私の能力なら可能です』
『言われんでも! 離脱!!』
『うわーっ来たあああ!?』
セレネは誘引の為に付かず離れずであった距離感を離し、高速で高度を上げて飛び上がった。




